国際・政治

CIPSとSPFS 中露「脱ドル・SWIFT」化 他国・地域にもじわりと拡大 蔵納淳一

ブラジル・サンパウロ州での大豆の収穫風景。中国はブラジル産大豆の一大輸入先で、人民元建て取引が拡大する可能性も Bloomberg
ブラジル・サンパウロ州での大豆の収穫風景。中国はブラジル産大豆の一大輸入先で、人民元建て取引が拡大する可能性も Bloomberg

 中国やロシアの国境をまたぐ決済システムと接続する国や参加する世界の金融機関が増えている。西側諸国の対露制裁が一つのきっかけだ。

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 ロシアによるウクライナ侵攻を受け、西側諸国は2022年3月以降、ロシア中央銀行の外貨準備口座を凍結し、国際銀行間通信協会(SWIFT)が運営する決済網からロシア商業銀行最大手のズベルバンクなどロシアの銀行10行を排除する経済制裁を発動した。SWIFTは世界中の金融機関が相互に送金する時に使う電文形式「金融メッセージ」を処理する通信システムの運営組織だ。ベルギーに本拠があり、世界200カ国・地域の金融機関1万1000以上が参加している。

 しかし、制裁の効果は限定的ではないかという見方が広がっている。制裁に加わっていない中国やインドなどとロシアの貿易が急増し、露経済を下支えしていることが背景にある。特にロシア・ルーブルと中国人民元の取引量はウクライナ侵攻直後の22年5月、約40億ドル(現行レートで約5400億円)に上ったとブルームバーグは報じた。

 ルーブル・人民元の取引はその後も拡大した。露中銀の発表によれば、ロシアの外国為替市場で取引に占めるルーブル・人民元の取引は今年3月、過去最高の39%に達した。一方、ドル・ルーブルの取引は過去最低の34%だった。

 SWIFTのデータによると、全世界のクロスボーダー(国境をまたぐ)決済に占める人民元のシェアは2%前半に過ぎない。しかし、人民元のオフショア決済に占めるロシアのシェアはウクライナ侵攻後に急増した。22年7月には3.9%に達し、国・地域別では香港、英国に次ぐ3位に浮上した(ウクライナ侵攻前は上位15カ国・地域の圏外)。今年3月のデータでも4位だ。制裁の対象ではない露金融機関がSWIFTを通じて一定量の人民元決済をしている結果と思われる。

イラン、インドも接続

 では、中国と外国の決済に使われる通貨はどうか。今年3月には人民元が48.4%と初めてドルの割合(46.7%)を超えたとロイターが4月26日、中国国家外国為替管理局のデータを計算した結果として報じた。国際決済銀行(BIS)の発表によれば、世界の外国為替市場の取引高に占める人民元のシェアは7%(22年4月の1日当たり平均)。19年4月平均と比べて2.7ポイント増え、順位も8位から5位に上昇した(図1)。人民元の存在感は総じて高まっているといえる。

 中国とロシアはこれらの取引を支えるため、SWIFTと同じ機能を果たすクロスボーダー決済システムを構築している。人民元の国際決済については15年稼働の「国際銀行間決済システム(CIPS)」、ルーブル向けは17年稼働の「露中銀金融メッセージングシステム(SPFS)」だ。後者はロシアが14年、ウクライナ領クリミア半島を併合した後、SWIFTから排除される可能性があるとして開発したものだ。

 CIPSに参加する金融機関は今年3月末現在、109カ国・地域の1427機関(直接参加79機関、間接参加1348機関)。1年前と比べて123機関(それぞれ3機関、120機関…

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