国際・政治

ドルの覇権を支えた6要因が直面する“揺らぎ”とは 滝澤伯文

バイデン政権の対応がドルの価値を毀損する(Bloomberg)
バイデン政権の対応がドルの価値を毀損する(Bloomberg)

 米国で金融不安が広がっているが、バイデン政権の銀行救済策が米国債への信認、すなわちドルの価値を毀損するのではないかと懸念されている。

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 米国発の金融不安が金価格を押し上げているように見えるが、本質は金融不安が金価格上昇の原因ではない。「金融不安」に対応するため、バイデン政権が打つ方策がドルの価値を毀損(きそん)するという思惑が金の価格を押し上げたのである。

 今の「金融不安」で明らかなのは、2008年のリーマン・ショックと呼ばれる世界金融危機(GFC)とは違う。GFCが金融システムをつかさどる欧米大手金融機関の突然死のリスクだったのに対し、今は米連邦準備制度理事会(FRB)の長すぎて、甘すぎた、金融緩和時代からの急激な利上げに対応できなかった地銀の問題だ。

 地銀の多くがリベラル州の偏った経営モデルであり、「株価下落からの取り付け騒ぎ」によって、大手に買収されているだけ。預金者は誰も預金を失っていない。今後も同じ現象は起こり続けるが、国家が救済を続け、大手行に波及しない限り、金融不安は時期尚早だろう。

 米国では今年3月以降、シリコンバレーバンク、シグネチャーバンク、ファースト・リパブリック銀行の3行が相次いで破綻したが、さらに今後の地銀の倒産も同様に救済されるなら、米国の預金7兆ドルは国によって担保されるという思惑が働く。その時に市場経済で懸念されるのは、米国債への信認、すなわちドルの価値の毀損である。

「フィアットマネー」に

 1971年のニクソン・ショックまでは、ドル紙幣は金(ゴールド)に交換するIOU(借用証書)であり、ゴールドが基軸だった。覇権国家の米国が一番ゴールドを持っていた。よってドルはゴールドとの交換の保証を失ったただの紙幣にもかかわらず、自分の裁量で通貨を発行できるフィアットマネー(国家の信頼を元に発行される法定通貨)となった。それ以後、真の意味で米国とドルの覇権の完成と言える。

 そのドルの覇権を支えた要因は、市場経済を専門とする見地からは、次の6項目が考えられる。米国の①金融経済力、②産業経済力、③消費経済力、④軍事力、⑤社会の魅力、⑥覇権国家を維持する戦略力──である。では、今この6項目がどうなっているかチェックしてみる。

 ①金融経済力:世界各国の自国通貨建ての金融資産の総額はおおむね100兆ドル規模であり、その金融資産が世界を流動する際のドル決済の支配率は90%を維持している。「グローバルサウス」(GS)と呼ばれる新興・途上国を中心に、世界で「ディダラーゼーション」(ドルを介さない決済)が加速しているが、西側のマネーが中心の金融資産をドルが支配する構図は今後も盤石だろう。

 しかし、ウクライナ侵攻に対する経済制裁の一環として、ロシアの中央銀行の資産を没収した愚行は、GSの外貨準備としてのドル、つまり米国債を保有する意思を極端に減らした。

 ②産業経済力:モノを造るインダストリアルパワーにおいて、中国はいまや世界トップに躍り出た。冷戦勝利後、西側はグローバリゼーションでコストである労働力は海外にシフトした。そうした状況の中で、ロシアの軍事力を甘く見てロシアを戦争に追い込んだ。現時点の軍事産業力でロシアに後れを取り、これに中国のインダストリアルパワーが合体すればどう勝機を見いだすのか。

 ③消費経済力:今の西側先進国のGDP(国内総生産)はどこも消費が中心になっているが、貯蓄より消費にいそしむ米国のカルチャーはまだ米国の優位を保っている。

 ただし、消費の原動力は人口であり、米国は中国の人口が頭打ちした…

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