投資・運用 半導体
SBGの巨額損失と半導体の競合台頭 アーム上場のほか道はなし 津田建二
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盤石のエコシステムによって優位を築いたアームだが、「RISC-V」というCPUコアの台頭がその地位を脅かしている。
ソフトバンクグループ(SBG)が5月1日、米証券取引委員会に英Arm(アーム)社の株式公開を申請した。SBGと「ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)1」が100%保有していた株式である。5月11日現在、上場市場や株式公開の規模、価格帯に関してはまだ決まっていない。
2016年にSBGがアームを買収した時、SBGの孫正義会長兼社長は「世界一の企業が欲しかった」と述べていた。当時のアームの売上額は600億円程度とさほど大きくはないが、アームは半導体IP(知的財産)コアのビジネスではトップシェアを誇る。
この買収については、孫氏だけでなくアーム側も喜んでいた。16年12月に日本で開催されたアームの技術シンポジウムで、来日した経営陣の一人が「SBGに買収されてよかった。長期的な視点で研究開発ができるから」と語っていた。ロンドン証券取引所と米ナスダック市場に上場していたそれまでは、株主から短期的な利益ばかり追求されて長期的な研究開発ができず、研究開発陣には不満が多かったという。SBGに買収されて1〜2年は順調に開発が進んでいた。
ところが、買収からわずか4年後の20年にはGPU(画像処理回路)大手の米エヌビディアへアームを売却することで両社が合意した。SBGがせっかく手にしたアームを手放すのは、SBGが投資している貸しオフィス企業の米WeWorkに1兆円もの大金をつぎ込んで大赤字になったからだ。これを穴埋めするため4兆〜5兆円の価値があるアームを売却することを決めた。
しかし、エヌビディアというファブレス(製造設備を持たず設計のみを行う)半導体メーカーにアームを売却すると、どの半導体メーカーにもIPをライセンスできるというアームの中立性が失われる恐れがあった。このため、独占禁止法によってエヌビディアへの売却は当局に認められなかった。
そこで、アームを上場させ、売却益を得ようとしたのである。そして株式上場のタイミングとしてはもはやこれ以上延ばすわけにはいかない状況にある。5月11日に発表されたSBGの23年3月期連結決算では、9701億円もの最終損失を計上している。
「RISC─V」が台頭
上場のタイミングをこれ以上遅らせられない事情はそれだけではない。「RISC-V」(リスクファイブ)というCPU(中央演算処理装置)コアが、アームの競合として登場してきたからだ。
RISC-Vは米カリフォルニア大学バークレー校のデビッド・パターソン教授やクルスト・アサノビッチ教授らが開発したフリーのCPUコアだ。CPUやGPU、DSP(デジタル信号処理回路)など、異なるプロセッサーを1チップに集積するIC(集積回路)が今後の先端半導体で注目されているが、RISC-Vはそれらの命令セットを統一するアーキテクチャー(設計思想)を特長とする基本プロセッサーである。バークレー校はソフトウエア開発のプラットフォームGitHub(ギットハブ)上でRISC-Vの仕様を公開して…
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週刊エコノミスト
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