投資・運用

ispaceの月面開発事業 長期的な支援が必要 鳥嶋真也

月面着陸の失敗を受けて記者会見するアイスペースの袴田武史代表(中央、2023年4月26日)
月面着陸の失敗を受けて記者会見するアイスペースの袴田武史代表(中央、2023年4月26日)

 日本の宇宙ベンチャー企業「ispace(アイスペース)」による月面着陸の試みは失敗した。月面開発の事業化には、実業家のイーロン・マスク氏の「スペースX」や、ジェフ・ベゾス氏の「ブルーオリジン」なども取り組んでおり、競争が激化している。

 日本の宇宙ベンチャー企業「ispace(アイスペース)」は4月26日、月着陸機「HAKUTO─R」による月面着陸に挑んだ。成功すれば民間企業として世界初の快挙だったが、トラブルにより失敗に終わった。4月12日には東京証券取引所グロース市場への上場も果たしていたが、失敗を受けて売り注文が殺到した。

 アイスペースは2010年に設立。米国や欧州にも子会社を持ち、社員数は213人を数える。同社が目指すのは、月面開発を事業化し、月面や、地球と月の間の「シスルナ(Cislunar)空間」に経済圏を構築するという壮大な未来である。突拍子もないことに聞こえるが、月周辺は今後、経済活動が活発になると考えられている。

 米航空宇宙局(NASA)は現在、日本を含む国際共同で、アポロ計画以来となる有人月探査計画「アルテミス」を進めており、宇宙飛行士が常駐しての探査や、将来的には月面基地の建設も予定されている。これを筆頭に、他国の宇宙機関や民間企業にも月を目指す計画がある。それも科学的な探査活動にとどまらず、人が月に定住したり、資源開発を行ったりといった、経済圏を築こうする計画を続々と打ち出している。

 月やシスルナ空間に経済圏を築き、それを持続可能なものとするためには、まずは地球から月へ、人や科学機器、物資、資源などを運ぶ手段が必要になる。アイスペースが目指しているのは、そのための宇宙機の開発や輸送サービスの提供である。いわば、宇宙の宅配トラック、宅配便サービスを開発し、ビジネス化しようとしているのである。

「一発勝負」の難しさ

 今回アイスペースが挑んだ「HAKUTO-Rミッション1」は、月着陸機の開発、ロケットによる打ち上げ、宇宙航行、月面着陸といった、一連の技術の実証を目的としていた。着陸機には宇宙航空研究開発機構(JAXA)やタカラトミーなどが共同開発した月面ロボットをはじめ、探査車や観測装置などを複数搭載していた。これらの輸送にあたっては料金が支払われており、月面輸送サービスの提供という事業モデルの検証も目的の一つだった。

 月着陸機は昨年12月に、米国のロケットで打ち上げられた。搭載物を効率よく運ぶため、月まで約4カ月かかる特殊な航路を取ったが、大きなトラブルもなく順調に航行。そして4月26日、月面着陸の日を迎えた。関係者が見守る中、着陸の直前までは順調に飛行したが、予定時刻を過ぎても着陸を示す信号が届かなかった。

 最終的には着陸機との通信が途絶え、着陸機は月面に衝突したと結論づけられた。原因は調査中だが、高度計の数値に誤差があり、月面ではないところを月面だと誤認した状態でロケットエンジンを噴射し続けた結果、燃料が切れ、墜落したものとみられる。

 月面着陸は技術的に難しく、やり直しがきかない一発勝負であるうえに、地球上で月の環境を再現して事前に…

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