地銀で進む基幹系システムのクラウド化 “北国&広銀ショック”とは? 川辺和将
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膨大なコストと安全性が求められる銀行の情報システム。その中でも重要な勘定系などの基幹系システムをめぐり、地銀業界では今「クラウド化」という大転換に直面、再編にも影響を及ぼしそうだ。
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「地銀再編のシナリオに影響を及ぼすだけでなく、新たなリスクの種となりかねない」
銀行の情報システムを巡って起きている勢力図の変化について、ある金融庁関係者がそう語る。銀行が運用する数々の情報システムの中核は、口座の出入金や利息計算を担う「勘定系システム」だ(他のシステムと合わせて「基幹系システム」ともいう)。
今の主流は銀行が自ら所有する「メインフレーム(汎用(はんよう)コンピューター)」という大型機で勘定系システムを動かす形態だ。ところが最近、一部の地銀が勘定系システムを、メインフレームから社外の情報システムベンダーが運用するサーバーに移す例が出てきた。インターネットを介して社外のコンピューターを利用する形態「クラウドコンピューティング」だ。サーバーはメインフレームと同じ機能を担うが、より小型で扱いやすいコンピューターを呼ぶ。
地銀にとって、自前のメインフレームからクラウド利用に変えることで、膨大な運用コストを削減できる。例えば、銀行がスマートフォン用に新たなサービスを始める場合、メインフレームとスマホ用システムを接続するシステム改修を考えると、クラウド化したほうがコストを削減しやすい。
クラウド化も連鎖的
地銀のクラウド化を巡って、銀行界を揺るがす二つの出来事があった。「北国ショック」と「広銀ショック」だ。
前者の主人公は石川県に本社がある唯一の銀行、北国銀行。2021年5月、勘定系システムをメインフレームからクラウドに移行した。今のところ目立った障害はなく、クラウド化したことでシステム改修が簡単になった利点を生かし、提供機能を着々と拡張している。システムの保守・運用費用を10年間で半減し、浮いた資金を新たなシステム開発に回すといった成長投資戦略が投資家に評価され、クラウドに移行後に株価は上昇基調が続いた。
北国銀に劣らぬ衝撃を全国に広げたのが広島銀行の動きだ。同行は22年11月、「30年度をめどとし、次世代基幹系システムとして、メインフレームからクラウドへの移行を目指す」と発表した。横浜銀行など地銀5行とNTTデータが運用する共同利用システムに参加し、クラウド化する。広銀はそれまでの間、ふくおかフィナンシャルグループ(FG)と共同運用するIBMのメインフレームを利用する。
西日本の有力地銀の関係者はこう語る。
「北国は勘定系システムを単にクラウド化しただけでなく、サーバーを他の銀行と共有したという二重の驚きがあった。一方、広銀のくら替えは、IBMとNTTデータというサービスプロバイダー間のパワーバランスを揺るがした。横並び意識の強い地銀の世界で今後…
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週刊エコノミスト
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