法務・税務 文化的盗用
上海モーターショーで起きたBMWアイス事件の“炎上”を考える 北島純
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中国でのビジネスで、いったん「差別」や「文化的盗用」と受け止められると、「反発の嵐」を鎮めることは難しくなる。
不買運動に発展、株価下落で3100億円溶ける
中国で今年4月に開催された「上海モーターショー」で、独BMWのブランド「ミニ」が配布したアイスクリームを巡り、「中国人差別だ」として炎上する騒動があった。企業側が大きな問題ではないと考える行為や表現でも、特定の国の国民世論を逆なでしたりする事件は後を絶たない。SNS(ソーシャルメディア)が発達する中で、企業にとってブランド価値をいかに守るかが大きな課題となっている。
アイス事件の発端は、開催初日の4月18日、ブースを訪れた2人の中国人女性がアイスを要望したが、配布担当者に「もうない」と断られたことだった。直後に来た白人男性にはアイスが提供され、食べ方の説明まで受けていた。この様子を動画撮影していた中国人男性ブロガーが「アイス、ありますよね」といって要求すると、「これは外国人向けだ」として配布が拒否された。動画には、その後アイスボックス自体が慌てて撤去される様子や、来場者が座るべきベンチに白人スタッフ数人が堂々と陣取ってアイスを食べている姿も写っていた。
中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」で動画が配信されるや、「中国人差別だ」という批判が殺到。ミニ側は20日、「内部管理の不注意とスタッフの職務怠慢を謝罪し、社内研修を強化する」というコメントを投稿したが鎮火せず、BMWに抗議する動画が多数投稿され、不買運動まで勃発した。また、ドイツ株式市場でのBMW株価は一時3%超下落し、時価総額で21億ユーロ(約3100億円)が失われた。
BMWはたまらず21日、「公式アプリでアイスのクーポンを1日先着300個限定(2日分)で配布していたが、ブースのスタッフにもごく少数が予約されていた」と釈明した。動画の外国人はスタッフとしてアイスを受け取っただけで、顧客への配布は終了していた旨の弁明だ。一見すると合理的な説明だが、これだけでは中国全土で吹き荒れたBMWへの「反発の嵐」を鎮めることはできなかった。
動画ブロガーに対して現場の中国人配布担当者がとっさに「外国人向けだ」と方便を言ったことが騒動の直接的トリガーだったとしても、炎上に燃料を投下したのはBMW側の事後対応だ。顧客を差し置いてスタッフがアイスを食べたことをわびるだけでなく、配布に外国人・中国人の差はなかったことを強調しないと、民族差別という「強い反感」を抱いた人々の憤慨を鎮めることは難しい。同じことがフランクフルトやデトロイトのモーターショーであり得たかを想像すれば、上海での騒動が「民族差別」の構図に落とし込まれるリスクを過小評価することはなかったであろう。
ディオールも謝罪
中国市場における「反感」をコントロールできずにブランド価値を毀損(きそん)させる企業が相…
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週刊エコノミスト
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