経済・企業

インタビュー「IOWNで消費電力抑制」川添雄彦NTT副社長

 NTTは光技術をネットワークに導入して、日本のICT産業の「ゲームチェンジ」を狙っている。川添雄彦副社長に聞いた。(聞き手=浜田健太郎・編集部)

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── NTTは、光技術を用いた次世代通信網の「IOWN(アイオン)」の構想を掲げ、今年3月に商用サービスを始めた。

■IOWNにおける大きな効果は低消費電力化だが、ネットワークで生じるデータ伝送の遅延を大幅に減らすことも狙いだ。これを実感したのが音楽だった。今年2月、NTT東日本が、東京のオーケストラとピアノ1台、大阪のピアノ1台を結んで、「リモート演奏会」を主催したところ、音響が通常よりもよかった。ステージにピアノ2台を置いてデュオ演奏すると、音は音速で伝わるから(客席に届くまでに)遅延が生じるけれど、IOWNだとそれがない。理屈では分かっていたが、体感して驚いた。

 IOWNとは、電子によるデータ処理(主に半導体)と、「光」が担う機能(主に伝送路)を接合させる「光電融合」を中核として、消費電力を効率化させると同時に、データ処理の超高速化を目指す次世代通信網の構想。光電融合を実現するデバイスや機器を配置した「オールフォトニクス・ネットワーク」は、電力効率を100倍、伝送容量を125倍、映像の遅延200分の1を目指す。光電融合デバイス開発は、2023年度以降から30年度以降の4段階に分けて開発目標を立てている。

ICTは「貿易赤字」

── 世界的に話題沸騰の生成AIだが、チャットGPT1回の利用で、グーグル検索の10倍くらいの電力を消費するとの指摘も聞く。

■検索や翻訳などのインターネットのサービスは、「無料」で使えると誰もが思っている。しかし、無料はあり得ない。利用者はサービス提供者側に、個人情報やマーケティング情報などを与えている。チャットGPTのような生成AIを利用すれば、従来にも増して何らかの「対価」を利用者が払うことになる。サービス提供者側は、データセンターの電気代などのコストを負担する一方で、それに見合う対価(個人情報など)を得る見返りとして、検索や生成AIのサービスを提供している。

── 情報通信サービス(ICT)の「貿易収支」は21年が1・4兆円の赤字で、30年には赤字額が8兆円に拡大すると経済産業省は試算している。

■輸入する一方になっているのは非常に問題だ。NTTが独自に、LLM(AIが文章を生み出すために必要な事前学習モデル)の開発に乗り出すと5月に発表したのも、日本国内でICTサービスが循環する状況を作り出す必要があるとの考えからだ。

── 気候変動対策として、主要な企業にはサプライチェーン全体での排出量の把握が求められている。データセンターや、生成AIサービスを提供している巨大IT企業は、排出削減に関する義務を負うことは避けられない。

■削減につながるデバイスやネットワークを日本が提供できるのであれば、それは日本からの輸出になる。CO2(二酸化炭素)を出さない形で、(従来以上の)サービスを提供することが競争力になる。まずはそのモデルを日本で作る必要があると考えている。

 我々が開発するLLMがまさにそうだ。LLMの性能を測る「パラメーター」は、数値が多いほど性能が高くなると現在は理解されている。しかし、当社のシステムは、パラメーターを10分の1に低減しても他のLLM…

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