世界は“金融緩和バブル”という砂上に立つ楼閣だ 澤上篤人
有料記事
バブル期に迫る株価上昇に対して、インフレを知らない世代の危険な状況と、長期投資のパイオニアは警鐘を鳴らす。
>>特集「日本株まだ上がる」はこちら
本当の投資家がいなくなった──。1989年末をピークに崩壊したバブル期を追うような日本株の上昇を目の当たりにして、私が率直に感じることだ。相場を追いかけては、値ザヤを稼ごうとするディーラーばかり。つまり、投資家とはほど遠く、目先の利益を追う人たちだけだ。投資家とは、将来に向けてお金に働いてもらい、その事業拡大でリターンを得る人たちだと私は思っている。
私がいう投資とは、5~10年先を見据えて、その企業の価値の高まりを読み込んでいくこと。みんながいまだ読み込めていない間に、安く買う。将来の納得に向かって、今の不納得で行動するのが投資だ。最近は、そうした将来を読み込んで投資する投資家が減ってしまった。
金余りの奇跡の時代
経済の歴史的な流れを理解しないと、足元で起きている世界的なインフレ(物価上昇)の動向を見誤る。このインフレは、日本も無縁ではいられない。
過去40年間、世界は金余りの時代だった。日本はじめ世界各国が財政と金融政策をフル稼働させて、おカネをばらまいてきた。通常、そんなことをすれば、激しいインフレが起きて、世界中が大混乱する。
しかし、現実には低インフレ、低金利という最高の投資環境が続いた。それに投資家が乗って大きなリターンを得られた、奇跡のような時代だった。
では、こんな状況がこの先もずっと続くのか。結論を急げば、続くわけがない。この40年間が歴史的にも異常な状況だったと肝に銘じるべきだ。
その理由を考える前に、なぜ、異常な状況(投資家にとって最高の環境)が40年間も続いたかを整理しよう。
一言でいえば、いろいろな好条件が重なったからだ。まず、1970年代の2度のオイルショックを経て、米国経済がインフレと不況が同時に進むスタグフレーションに直面。それを封じ込めるために、ボルカー元米連邦準備制度理事会(FRB)議長による強烈な金融引き締めに伴う景気低迷に苦しんだが、80年代半ばには克服した。その後、米ソによる東西冷戦の終結で、現在に通じる世界経済のグローバル化が進んだ。
日米欧の主要国が、冷戦が終わり民主化された旧共産圏の新興国に進出し、工場を建設。現地の原材料や安い労働力を活用するなど、世界にサプライチェーン(供給網)を構築し、徹底的な合理化を図ることで大きな利益を上げるようになった。要するに、新興国から富の収奪を行ったということだ。
2000年代に入ると、中国が世界貿易機関(WTO)に加盟、「世界の工場」として台頭し、世界第2位の経済大国に急成長する。08年のリーマン・ショックで世界的な金融バブルは一度終止符を打つが、中国の4兆元(約60兆円)という巨額財政出動や各国の金融緩和で、100年に1度の世界的な金融・経済危機を乗り越えたかにみえた。
だが、世界経済の拡大発展、そして日本の高度経済成長をもたらした戦後の自由貿易体制が、逆流を始めた。反グローバル化である。トランプ前米大統領は「米国第一主義」を唱え、米中貿易戦争をしかけた。半導体や電子機器などの供給網が乱れ、価格を押し上げたのは周知の通りだ。
膨らむ世界の債務
反グローバル化に拍車をかけたのが、20年の新型コロナウイルスの世界的なパンデミック(大流行)と22年に始まったウクライナ戦争だ。さらに、世界的な脱炭素や人権意識の高まりも、効率や合理性を追求するグローバル化とは正反対のインフレ要因である。SNS(交流サイト)で情報が瞬時に拡散することで、低賃金の劣悪な待遇を余儀なくされていた新興国の労働者の賃上げ要求もインフレを後押しする。
最大の問題は、約40年間にもわたり低インフレ、低金利という絶好の投資環境に世界の政策当局者や学者、大手金…
残り1506文字(全文3106文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める