最大の民主主義国インドは原油と安保をロシアに依存する貧困国でもあった 佐藤隆広
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G7と友好関係にありながら、ロシアとも付き合う。日本人には理解しにくいインドの行動原理の背景には、貧困層を意識した政権運営がある。
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国際通貨基金(IMF)の最新統計によれば、昨年のインドの経済成長率は7.2%であり、2023年は6.1%、24年は6.3%が予想されている(図)。G7(主要7カ国)や中国に比べ、インドは底堅い経済成長が続く見込みである。IMFは、インドが27年にはドイツと日本を抜き、世界第3位の経済大国になると見ている
今年、インドは外交の舞台でも華々しい活躍をしている。G20(主要20カ国・地域)首脳会議の議長国として、9月に予定されているニューデリー首脳会議に向けて、マクロ経済問題を中心に、貿易・気候変動・エネルギーなどのさまざまな分野での国際的な経済協力を取りまとめているだけではなく、現在、資源価格上昇と食糧不足に苦しみ、気候変動による被害に最も脆弱(ぜいじゃく)なグローバルサウスへの国際的支援の必要性を主張している。また、ナレンドラ・モディ首相は、今年5月のG7広島サミットには岸田文雄首相から招聘(しょうへい)され、ウクライナのゼレンスキー大統領と初めての対談を行い、クアッド(日米豪印4カ国)首脳会議に参加した。さらに、モディ首相は、翌6月にはバイデン米大統領から国賓として招待され、ホワイトハウスで首脳会談を行い、安全保障や半導体などの分野での米印協力を実現した。
しかしながら、ロシアによるウクライナへの軍事的侵攻については、インドは国連のロシアに対する非難決議を中国とともに棄権し、さらにウクライナへの人道支援のための物資供給を担う自衛隊機のインドでの着陸を突然拒否した。また、インドは、西側が経済制裁対象にしているロシア産の原油を割安で輸入していることに加えて、今年、中露が主導する上海協力機構(SCO)の議長国でもあり、イランをSCOの新しい正式加盟国として受け入れた。
G7ともロシアとも幅広く付き合うインドの外交的な振る舞いは、日本からはなかなか理解しにくい。
所得はバングラ以下
そこで、まず、インドがロシアからの石油輸入を行っている事情を解説したい。インドは世界最大の民主主義国を標榜(ひょうぼう)しているが、その背骨にあたるのが、比較的公平・公正に実施される選挙である。インドでは、選挙前年のインフレ率が10%を超えると、翌年の選挙では現職政権が敗北するという有名な選挙法則がある。インドでは政党間の競争が激しく、インフレによって被害を受けるインド国民は、与党ではなく野党に批判票を投じる。その結果、政権交代が引き起こされる。21年のインドの1人当たり所得水準は、依然としてわずか2234ドルに過ぎず、隣国のバングラデシュの所得水準2498ドルを264ドル下回っている。インフレによる購買力低下に我慢できるだけの余裕は、多くのインド国民には存在しない。
インドでは、来年24年4月から5月にかけて下院選挙が実施される。現在のモディ政権は、14年に続いて19年の選挙でも圧勝し、3期目を狙っている。イン…
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週刊エコノミスト
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