東南アジアの自動車大国タイを席巻する中国系BEV 北見創
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世界でEVの普及が進む中、タイでは中国系メーカーが勢力を急拡大。日本企業は出遅れが目立つ。
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日本からタイを訪れた人は、現地での電気自動車(EV)市場の変容ぶりに驚くかもしれない。1年前までは、新車市場の大勢を占めていたのは、日系メーカーが生産するエンジン車(ICE)やハイブリッド車(HV)で、バッテリー駆動電気自動車(BEV)は富裕層が「道楽」で買うものだった。タイは「アジアのデトロイト」と呼ばれる自動車大国だ。これまで日系企業が中心になって現地の自動車産業・市場を育ててきたという矜持(きょうじ)もあり、BEVについては静観する向きが多かった。
市場シェア8%弱
しかし、2023年上半期(1〜6月)には、BEVの新規登録台数は3万1700台になった。前年同期比で10倍を超えており、驚異的な勢いだ。大部分は中国メーカーのモデルが占め、日本メーカーはわずかだ。自動車市場全体で見れば、BEVが占める割合は7.8%まで上昇した(図)。こうした急拡大は日本企業にとっては「脅威」で、「日本企業の牙城が切り崩される」という悲観論も現実味を帯びてきた。
急増の背景には、補助金を含むBEVへの手厚い優遇策がある。タイ政府は30年までに自動車生産台数の30%をゼロエミッション車とする「30@30」政策を掲げ、昨年から奨励措置が本格化した。国内でBEV市場を育成するため、1台当たり7万〜15万バーツ(約28万〜約60万円)の補助金支給を開始し、購入を奨励した。BEV購入時にかかる物品税を通常8%から2%に引き下げたうえ、輸入税(通常80%)を0〜40%に減免した。大盤振る舞いの様相だ。
BEVのみを優遇措置の対象としたタイ政府に対し、冷静さを求める声も多かった。タイはプラユット政権(当時)が21年に「バイオ・循環型・グリーン(BCG)経済」を国家戦略に位置付けた。同首相は、21年に英国であった国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で、50年までのカーボンニュートラル(脱炭素化)達成という目標を発表した。炭素削減のためEV産業を振興するという理屈だが、主電源が天然ガスや石炭であるタイでBEVがどれほど低炭素化に貢献するか、といった議論は脇に追いやられた。
BEVの普及を急がなければ、インドネシアなどの競合国が「東南アジアのEV拠点」としての地位を確立する、といった危機感も背景にある。特にインドネシアは、バッテリーの原料となるニッケルなどの鉱物資源を有する。同国はニッケル工場、バッテリー工場の誘致に成功し、中国・五菱汽車、韓国・現代自動車がBEVの現地生産を開始した。22年のEV新規登録台数はタイを上回った。
タイでのBEVの新規登録について、上位10モデルを示した(表、拡大はこちら)。トップは比亜迪(BYD)の「ATTO3」…
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週刊エコノミスト
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