資源・エネルギー

脱炭素・EV普及で不足する金属 代替がない銅 野辺継男

20年かけたモンゴルのオユトルゴイ鉱山(Bloomberg)
20年かけたモンゴルのオユトルゴイ鉱山(Bloomberg)

 クリーンエネルギーやEVの普及で銅などの不足、価格高騰が懸念されている。

代替と利用減に動く世界

 世界的なクリーンエネルギー転換により、主要なエネルギー源は石炭、石油、天然ガス等の化石燃料から、無限の太陽エネルギーをソーラーパネルや風力タービンで電力に変換した再生可能エネルギーに代わる。

 それに伴い、電力をより効率的に生成、蓄電、流通、利用するために、鉄鋼や銅などの身近な工業材料から、リチウム、コバルト、ニッケルや希土類まで、重要な鉱物の需要が急激に増えている。世界的エネルギー需要は今後も拡大し、主要鉱物の多くが今後数年で不足すると、多くの調査資料で予測されている。

 マッキンゼーが7月5日に発表した報告書「ネットゼロ・マテリアルズ・トランジション」によると、2022年から30年にかけて、電気エネルギーを貯蔵するバッテリーに必要なリチウムは約4.3倍、ニッケルやコバルトは約1.6倍、電気自動車(EV)のモーターや風力タービンに必要なジスプロシウムとテルビウムは約2.9倍需要が拡大するという。

 同報告書によると、こうした需要の拡大に対して、「リチウム、コバルト、銅、ニッケルの供給は、30年までに約40%分の鉱山が追加されたとしても、リチウムとコバルトが21~50%、ニッケルと銅が11~20%不足し」「磁石材料として必要なジスプロシウムとテルビウムは50%以上不足する」としている。こうした金属のいくつかに供給不足は、必然的に世界の脱炭素化を遅らせることになる。

代替技術と材料

 これに対して解決策の一つに「代替技術へのシフト」がある。

 例えば、リチウムイオン電池の発展において、これまで高性能を求めるために、三元系といわれるニッケル、コバルト、マンガンの複合材を正極に使用したり、アルミを添加し更に高性能化するといった進化が18年ごろまで一つの方向性になっていた。当時コバルト供給の約75%のシェアを持つコンゴ民主共和国における未就学児労働の問題などから、コバルトを利用しないリン酸鉄リチウムイオンバッテリー(LFP)への移行も促進された。

 19年10月から中国上海で生産開始された米テスラのEV「モデル3」には世界最大の車載電池メーカーCATL(寧徳時代新能源科技)製のLFPが搭載された。更に技術的な高度化を進め、その後のモデルYにも搭載され、中国車の多くもLFPを採用。EVにおけるLFPのシェアは19年の約6%から23年には約42%まで拡大した。その結果もあり、コバルトは供給過剰となり価格が22年6月のピークから60%以上下落した。

 リチウムイオン電池では、リサイクル技術も高度…

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週刊エコノミスト

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