伸び悩むデジタル人民元 目指すは国際決済網の構築だが 中田理恵
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通貨のデジタル化の観点で、世界的にも開発が先行しているデジタル人民元。ただ、普及に向けた課題は山積している。
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近年の世界的なDX(デジタル化)の潮流の下、各国の中央銀行は自国の現金通貨をデジタル化した中央銀行デジタル通貨(CBDC)の発行可能性を模索している。早期から研究に取り組んできた中国は現在、主要国の中で最もCBDCの実用化に近い位置にある。
中国人民銀行(中央銀行)が発表したデジタル人民元白書によると、人民元のCBDC(以下、デジタル人民元)導入の目的としては、①電子決済需要への対応や銀行口座を持たない層への金融サービス提供(金融包摂)促進、②支払いシステムにおける公平性・効率性・安全性の向上、③クロスボーダー決済(国境を越えた決済)改善──などがある。既に民間サービスにより銀行口座を持たない層にも電子決済手段が普及している点を踏まえると、デジタル人民元導入における主眼は「支払いシステムの公平性・効率性・安全性の向上」と「決済改善」にあると捉えられる。
「支払いシステムの公平性」という響きにやや唐突さを感じるかもしれない。その背景には、中国国内のスマートフォン(スマホ)決済市場はアント・グループが提供するアリペイ(支付宝)と、テンセントが提供するウィーチャットペイ(微信支付)という2大サービスによる寡占状態にあり、近年中国当局はこの弊害、例えば自社サービスを利用する企業に競合他社の利用を禁じることなどを問題視しているという事情がある。
スマホで支払い完了
デジタル人民元は主にスマホにアプリを入れて利用することが想定されている。支払い方法はアリペイなどとよく似ており、ユーザーはアプリ上でQRコードを表示し、店舗が読み取ることで支払いが完了する。
想定されている流通の仕組みは図1の通りである。個人がデジタル人民元を取得する場合、アプリから銀行を指定してデジタルウォレットを開設、銀行に現預金を入金すると同額のデジタル人民元がチャージされる。なお、銀行は個人に配布するデジタル人民元と同額を100%準備金として中国人民銀行に預け入れ、中国人民銀行はこれと引き換えに同額のデジタル人民元を発行する。この準備金により「1人民元=1デジタル人民元」という金銭的価値が維持される。
2020年10月に一般市民を対象としたデジタル人民元の大規模な公開利用実験を開始して以降、当局は積極的に普及策を打ち出してきた。例えば、一般市民を対象としたデジタル人民元の配布、デジタル人民元を用いた商品購入へのキャッシュバック、銀行による勧誘活動などである。その成果としてユーザー数は急速に増加し、21年末時点で累計個人ウォレット開設数は2.6億に達した。
だが、その利用状況は芳しくない。図2はデジタル人民元の累計ウォレット開設数と累計取引額をアリペイの参考値と比較したものである。21年末のデジタル人民元の累計ウォレット開設数はアリペイのユーザー数の2割超まで達している。一方で、デジタル人民元はこれまでの「累計」取引額で見ても、アリペイの「年間」取引額には遠く及…
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週刊エコノミスト
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