中国経済を覆う“雇用不安”“国進民退”“不動産不況”の三重苦 てこ入れ策は不十分 斎藤尚登
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ゼロコロナの後遺症に加えて、民営企業への厳しい規制が経済回復力を弱めている。
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3年にわたる厳格な「ゼロコロナ」政策が終わり、「ウィズコロナ」政策に転換した2023年に入っても中国経済の回復力は弱い。国内問題に限ってみても「雇用不安、国進民退(政策の恩恵が国有企業に集中)、不動産不況」の三重苦に喘(あえ)いでいる。
期待されたリベンジ消費は早くも息切れしている。要因の一つは、若年層(16~24歳)の高失業率であり、今年6月は実に21.3%に達した(図1)。背景には、「ゼロコロナ」政策に加え、20年秋口からの巨大IT・プラットフォーム企業に対する規制強化、21年夏の学習塾の非営利団体への移行など政策の失敗や悪影響により、民営企業を中心に若年層の雇用吸収効果の大きい産業が軒並み不況に陥ったことなどがある。かつて中国の若年層は「月光族(毎月の給料を使い尽くす)」と呼ばれ、消費性向が高かったのだが、こうした人々が節約志向を強めている。
固定資産投資もさえない。23年1~7月の固定資産投資を国有部門と民営部門に分けると、国有は前年比7.6%増(以下、変化率は前年比)であったのに対して、民営は0.5%減と明暗が分かれた(全体では3.4%増)。まさに「国進民退」であり、22年春以降、こうした状況が続いている。
不動産開発投資に関連して、デベロッパーへの銀行貸し出しの強化などによって、住宅を契約通りの品質と納期で購入者に引き渡す「保交楼」は、ある程度奏功し、住宅竣工面積は増加している。一方で、保交楼は建設中の物件の完成と引き渡しが目的であり、新規需要を刺激するわけではない。こうした状況下で新規着工面積は大幅な減少を記録している(図2)。
若年層の高失業率の主因の一つが民営企業の経済活動の停滞にあることを考えると、景気の本格的な回復には、①民営企業に対する強力なテコ入れと、②住宅市場の安定化・不動産不況からの脱却が必要である。まず、民営企業に対するテコ入れは本格化しつつある。党中央と国務院は7月14日付で「民営経済の壮大な発展を促進することに関する意見」を発表した。これを受けて、国家発展改革委員会は7月24日、民営企業の投資を促進するための通達を発した。
社会主義的な国家主席
例えば、①民営企業の参入を促進する国家重点プロジェクトや国家の弱点を補うプロジェクトなどのリストを発表する、②民営企業による投資プロジェクトのリストを作成し、それを銀行に送付して、民営企業の投資に対する貸し出し増加をサポートする、などとしている。
こうした動きは、歓迎すべきである。しかし、まだ足りない。18年11月の民営企業座談会において、習近平国家主席は「民営経済は税収の5割以上、GDP(国内総生産)の6割以上、技術革新の7割以上、都市部雇用の8割以上、企業数の9割以上を占める」と発言した。であれば、民営企業への支援を際立って厚くすることが、景気回復には最も効果的なはずである。
例えば、民営企業向けの銀行貸し出しの伸び率が全体を上回るようにしたり、預金準備率引き下げの際に…
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週刊エコノミスト
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