私が考える一手「長期金利の誘導目標を0.25%に」岩下真理・大和証券チーフマーケットエコノミスト
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今回決定したイールドカーブ・コントール(YCC、長短金利操作)運用の柔軟化策は政策転換ではなく、機動的なオペ運営の見直しであり、現在の枠組みのもとで緩和の持続性を高める位置付けだ。長期金利の変動幅は「プラス・マイナス0.5%程度」をめどとする以上、指し値オペの1%は予防的なものであり、かなり遠い水準設定と考えられる。
当面0.7%超えの金利上昇は抑制するように思われる。今回、物価の上振れリスクにフォワードルッキングな(先を見越した)対応をした点は評価したいが、それだけ2%の物価安定目標の実現にはまだ距離があり、本格的な政策の正常化(枠組みの見直し、マイナス金利の撤廃)のハードルは高いことを物語る。
各種報道によれば、今回、日銀が早めに動いた背景には、財務省が円安を警戒し、日銀に政策修正を求めていた形跡が指摘された。7月28日の植田和男総裁の定例会見、8月2日の内田真一副総裁の講演後会見のいずれにおいても、為替市場のボラティリティーが重要な要素であったことを認めた。日銀の政策反応関数の一つに為替動向は入っている。予想物価上昇率が高まると実質金利が低下し、それに応じて副作用を軽減するために動くとの判断だけで決めてはいない。そのため、次なる政策修正のタイミングは非常に読みにくくなった。
物価上振れも
植田体制のスタート時点は、「黒田緩和」の継続で慎重姿勢だったことを思うと、今回の決定が初めの一歩だ。今後のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)や金融市場次第ではあるが、金融政策の正常化のプロセスが早まる可能性が出てきたように思われる。当面は、今回の効果を見極めた上で、次はYCCの追加修正、撤廃の後、国債買い入れの減少、バランスシート(貸借対照表)の縮小やマイナス金利解除を考えていくことになるだろう。市場とのコミュニケーションを深めるには、米連邦準備制度理事会(FRB)が2014年9月に公表した「政策の正常化の原則と計画」のような、正常化に向けたロードマップを示すことが望ましい。
今後も為替動向に配慮するなら、突然の政策修正があってもおかしくない。ただし、大きな流れの円安要因は、…
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週刊エコノミスト
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