国際・政治 中国危機 

中国から run=潤 日本は好“コスパ”の移住先 中島恵

高田馬場駅近くに目立つ中国料理店や中国人向け予備校
高田馬場駅近くに目立つ中国料理店や中国人向け予備校

 上海がロックダウンされた2022年春以降、中国人の海外移住熱が高まり、一部が日本を目指しているという。

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 2022年春以降、日本へ移住を希望する中国人が増えている。出入国在留管理庁の統計によれば、日本に中長期滞在できる在留資格を得て在留する中国人は22年12月末現在、前年同期比6.3%増の76万1563人に上った。同年中に4万4957人増えた。そのうち日本で事業を営むために必要な在留資格「経営・管理」を取得した中国人は前年同期比16.3%増だ。

 日本に移住する中国人が増えた理由は何か。私は今年5月に出版した『中国人が日本を買う理由』(日経プレミアシリーズ)を執筆するため、22年春以降、数多くの中国人にインタビューしてきた。その一人はインターネット関連ビジネスを友人と営む当時29歳だった男性。彼は私の取材にこう語った。

「私は上海出身ではないが、上海の厳しいロックダウン(都市封鎖)を目の当たりにして、このまま中国にいたら自分はどうなるのかと恐ろしくなった。20年に東京・豊洲のマンションを購入していたので、急いで東京にやってきた」

「潤」=「run」

 新型コロナウイルスの感染が急拡大した22年3月下旬、上海市当局は約2500万人に上る市民の外出を厳しく制限、PCR検査を連日受けさせるなど不自由な生活を強いた。解除したのは2カ月後の6月1日だ。

 男性は出張の多い仕事に就いていたため、「もし移動先で感染したら強制的に隔離されるかもしれない」と強い不安を覚え、出国を決めたという。

 22年4月、中国の検索サイト、百度(バイドゥ)で、「潤」(ルン)という漢字を検索する人が急増していると話題になった。中国語の「潤」の発音記号は英語の「run」と同じつづりであることから、転じて「移民する」という意味で使われるようになった。ゼロコロナ政策をやめない政府に嫌気がさした富裕層に限らず、中間層の間でも「潤」はホットなトピックになった。

 彼らが海外移住を望む理由はほかにもある。中国政府が21年夏に打ち出したスローガン「共同富裕」だ。「ともに豊かになる」という意味。政府は経済成長によって生じた格差を是正するため、学習塾を閉鎖し、IT(情報技術)大手を締めつけ、富裕層や芸能人に厳しく対応するようになった。富裕層の間で「突然、財産を没収されるのでは」という臆測が広まった。

 22年秋、IT大手のアリババ集団の創業者、馬雲(ジャック・マー)氏が日本に長期滞在していると報道され、話題となった。ほかにも、日本人の多くが知らない間に、中国の大手企業幹部や有名メディアの編集長などが続々と日本に移住してきた。今年6月、40代の在日中国人女性から「最近、来日する人の中には芸能人やインフルエンサーも多い」と聞いた。東京の有名ホテルの宴会場を貸し切り、派手なドレスを着た人々が集まる“移住記念パーティー”を開くこともあるという。「パーティーに華を添えるため、日本の芸能人や政治家に謝礼を払ってゲストとして来てもらったり、乾杯の音頭を取ってもらったりすることもある」と話した。

日本は移住先7…

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