国際・政治 中国危機
生成AI開発に市場熱狂 米中対立で技術の自主開発強化 李智慧
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生成AI開発を急ぐ中国。急速な成長が注目される一方で、課題も多い。
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米国のオープンAI社が開発した対話型AI「チャットGPT」の登場が、中国に大きなインパクトを与えている。チャットGPTは従来の人工知能より、はるかに高い能力を持っており、技術面の実力差に危機感を募らせた中国企業は、AI新時代に乗り遅れないようにと必死になっている。
今年7月6日、筆者は上海で開催された「世界人工知能大会」に出向き、その熱気を身近に体感した。6回目の開催となった同大会は、これまでで最大規模といわれ、5万平方メートルの展示会場に過去最多の400社以上が出展した。
大会では、「BATH(バース)」と呼ばれるネット検索大手「百度(バイドゥ)」、EC(電子商取引)大手「アリババ集団」、メッセンジャーアプリ「微信(ウィーチャット)」などを展開するSNS大手「騰訊控股(テンセント)」、通信機器大手の「華為技術(ファーウェイ)」のほか、アリババに次ぐ中国第2位のEC事業者「JDドットコム」などの大手IT企業、AI新興企業のiFlytek(アイフライテック)や商湯集団(センスタイム)、インターネットセキュリティー企業の360など、有力テック企業が我先にAI基盤モデル(大量で多様なデータから高い一般化性能を獲得したAI)とその応用事例などを発表し、自社の優位性をアピールした。このほか、半導体チップ、ロボットなど人工知能と関連する産業や、スマートシティー、自動運転などの実装分野なども紹介された。
「百モデル戦争」
チャットGPTブームを受け、生成AI業界に参入する中国企業は急増している。科学技術活動を管理する中国科学技術部「次世代人工知能発展研究センター」が発表した報告書によると、5月28日までにパラメーター数(機械学習モデルが学習中に最適化する必要のある変数の数)が10億以上のAI基盤モデルが少なくとも79種類発表された。市場の熱狂ぶりは「百モデル戦争」と呼ばれている。メガテック企業のみならず、ベンチャー企業や大学・研究機関、産業分野向けのサービス企業も重要な参加者となっている。
テック業界のリーダーも相次いで起業している。中国ネット出前サービスを手掛ける生活関連サービス大手の美団(メイトゥアン)の共同創業者だった王慧文氏は2月13日、5000万ドル(約73億円)の自己資金を投じ、「中国版オープンAI」の設立を目指すと宣言し、ネットで大きな話題を呼んだ。元グーグル中国総裁の李開復氏や、ポータルサイトの「ソウゴウ」創業者の王小川氏も参入を表明した。
生成AI開発では、北京智源人工知能研究院や清華大学、復旦大学、中国科学院など、大学や研究機関も存在感を示している。清華大学の知識工程実験室から生まれた大規模言語モデル「GLM-130B」をベースに開発された対話型大規模言語モデル「チャットGLM-6B」は研究者らに人気を呼んでいる。中国語と英語の双方に対応できるオープンソースの多言語モデルで、一般消費者向けの画像処理半導体(GPU)でも動かせることが特徴だ。多額の資金を投入できない研究者や一般企業の研究開発を支えている。
多様なプレーヤーの参入と技術利用の活発化により、中国の生成AI市場は急成長が見込まれている。中国の調査会社「艾媒諮詢(IIメディアリサーチ)」が発表した『23年中国生成AI業界発展研究報告』によると、23年の中国生成AIの市場規模は、前年の約7倍の79.3億元(約1570億円)に達する見込みで、28年には2767.4億元(約5.5兆円)に拡大する…
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週刊エコノミスト
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