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マーケット・金融 埋込型金融の衝撃

世界中で巻き起こる金融チャンネル革命 北山桂

 金融の構造を変えるイノベーションが始まった。銀行、証券、保険といった金融機能は、多様なサービスの中に組み込まれる「部品」に変わる。店舗やATM(現金自動受払機)が不要の新金融サービスの幕開けとなる。

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 マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏は1994年に、「Banking is necessary, but banks are not.」(銀行機能は必要だが、銀行がその提供主体ではなくなる)と語って将来を見通したが、その予言に近い現実が到来している。「BaaS(サービスとしての銀行)」や「エンベデッド・ファイナンス(埋込型金融、組み込み型金融)」と呼ばれるイノベーションが世界中で芽吹き始め、人々が日ごろから接点を持つ金融以外の身近なサービスを通じて、「金融」を利用するようになっているからだ。

部品と化す金融機能

 BaaSとは、金融機関が持つ金融機能をモジュール(部品)化して、さまざまな企業に提供することを意味する。もう少し詳しくいうと、銀行や証券、保険、クレジットカード会社などが自社の金融機能を非金融事業者(事業会社)にAPI(囲み参照)経由で提供することで、その事業会社のオンラインサービスや自社アプリに金融機能を容易に埋め込むことを可能にする。この金融機能を埋め込んだ組み込み型サービスがエンベデッド・ファイナンスだ(図1)。

銀行APIとは APIは、アプリケーション・プログラミング・インターフェースの略で、機能やデータを他のアプリケーションから呼び出すための接続口やその仕組み。銀行APIは、銀行と外部の事業者とがデータ連携するための仕組み。口座残高や入出金明細の照会、振り込みや振り替えなどの自動化に活用できる。2018年施行の改正銀行法は、銀行にAPIの体制整備の努力義務を課した。

 今年5月、GAテクノロジーズが運営するオンラインの投資用不動産サイト「リノシー」に、東京海上日動火災保険が提供する個人向け火災保険が埋め込まれた。両社のシステムをAPIでつないだのはフィンテック企業のフィナテキスト。不動産投資の検討から保険手配までをオンラインサイト上で一貫して手続きできる業界初の取り組みだ。これにより不動産投資家はシームレスに火災保険まで申し込め、東京海上日動火災は営業をせずとも保険契約者を獲得できる。GAテクノロジーズには保険の販売手数料がもたらされる。まさに三方よしの仕組みだ。

 フィナテキストホールディングスの伊藤祐一郎CFOは、BaaSやエンベデッド・ファイナンスについて「単なる今後の金融トレンドではなく、リテール金融の構造を大きく変えるイノベーション」だと話す。

 これまでの金融の基本的なスタイルは、金融機関が金融商品を組成し、顧客が金融機関の店舗やウェブサイトを訪れて購入する流れだった。だが、そもそも金融とは、住宅を購入するためにローンを借りるといった「手段」であり、主たる目的のサービスや日ごろから利用しているサービスに組み込まれている方が利用者にとっては都合がよい。

 金融機能を組み込む事業会社もサービスの価値向上を通じて顧客数や収益の増大を図ることができるほか、埋め込まれた金融機能からもたらされる手数料収益により本業のサービスを安価に提供することも可能になる。金融機関においてはニーズが顕在化しているところに金融機能を埋め込んだり、膨大な顧客基盤を持つ事業会社と連携したりすることで、高い広告費をかけることなく効率良く顧客を獲得できる。

 エンベデッド・ファイナンスによって金融機能はこれから生活の身近なサービスに続々と組み込まれていき、事業会社が金融サービスの提供主体となる「チャンネル革命が起きる」(伊藤氏)と考えられている。

2年後に市場34兆円

 米プライベート・エクイティのライトイヤー・キャピタルによれば、エンベデッド・ファイナンスの世界の市場規模は2020年の225億ドルから、25年には決済や保険分野を中心に2298億ドルにまで急拡大すると予想されている(図2)。日本円にして33兆5700億円もの市場だ。

 先行して普及している海外では、すでにさまざまなサービスの中に金融機能が組み込まれており、日本でも多くの導入事例が出始めている。

 例えば、ユニクロの会員証アプリに組み込まれている「ユニクロペイ」に…

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