“埋込型銀行”の社会実装が始まった 注目3社の取り組みとは(編集部)
有料記事
埋込型銀行はいまや鉄道会社や家電量販店のサービスに実装される段階に入った。JR東日本、ヤマダデンキ、GMOあおぞらネット銀行の取り組みをのぞいた。
>>特集「埋込型金融の衝撃」はこちら
◆JR東日本 駅構内に無料ATMを設置
「駅の券売機がATM(現金自動受払機)になったら便利だな」と思う人は少なくないだろう。JR東日本がそれに近い取り組みを「JREバンク」として2024年春から始める。
スマートフォンのアプリやウェブサイトでJREバンクの口座を開設すれば、預金や住宅ローンなどの利用に応じて新幹線など列車の優待や、JR東の商業施設で使える「JREポイント」を獲得できるようになる。JR東の228駅に設置された384台のATM「VIEW ALTTE(ビューアルッテ)」で現金を引き出す際の手数料も無制限で無料とする。即時決済できる専用のデビット機能付きキャッシュカードも発行する。実現すれば鉄道会社初の銀行事業参入となる。
グループの金融子会社ビューカード(東京・品川区)が銀行代理業を手掛け、楽天銀行が保有する金融サービスのインフラ、システムを活用する。
JR東、マーケティング本部の大井洋副長は参入の狙いを「顧客との長期的な関係の構築。金融の機能を増やすことで、利便性を広げ、既存事業とのシナジーを追求していくこと」と語る。
発行枚数9300万枚超の電子決済スイカが利用できる店は172万店(23年7月)に増え、ビザなど国際ブランドと連携するビューカードも557万枚(23年3月末)に達するが、デビット機能のカードはなかった。
「JREバンクでデビット機能が加われば、クレジットカードを持てない若年層、家計に敏感な方も利用しやすくなる。スイカのチャージの上限金額である2万円を超える消費にも対応でき、各生活スタイルや場面に応じて使い分けできるようになる」(ビューカード・和田晃一JREバンク推進部長)。
3000万人の経済圏
JR東にクレジットカードや銀行業の領空を侵犯する意図はないようだ。600万店で利用できる楽天ポイントと提携する予定はなく、JREポイントがたまるのは自販機を含めても5万カ所にすぎない。JR東が期待するのもアトレなど駅構内の商業施設160カ所での利用だ。加盟店のドミナント戦略も打ち出していない。とはいえ最大で3・5%のポイントが付くJREポイントの会員は1379万人(23年3月末)に達し、27年度までに3000万人の目標を掲げている。
楽天銀行と組んだ理由について大井氏は「法人より個人をターゲットにしている点。楽天銀行の口座を持つ人でもJREバンクの口座を開設でき、独自のアプリも開発できる。口座数も預金量もネット専業銀行でナンバーワン」といった点を挙げる。
JR東の1日の平均乗客数は1300万人。その駅に行けばATMがあり、駅構内や隣接する商業施設で買い物をすれば高いポイントが付く、となれば普段使いの銀行として普及し、楽天銀行の1400万口座が大挙してJREバンクになだれ込む可能性はある。
大井氏は「根底にあるのは小さいお子様から年配まで幅広い顧客層に、旅先や普段の消費だけではない接点も増やしていくこと」。狙うのは「金融サービスの揺り籠から墓場まで」だ。
◆ヤマダデンキ 家電込みで50年の住宅ローン
金利0.3%、最長50年の住宅ローンを提供する家電量販店がいつのまにか誕生していた。ヤマダデンキを全国1000店で展開するヤマダホールディングス(HD)が21年7月に始めたヤマダネオバンクだ。
ヤマダデンキは16年に住宅のリフォームローンに参入、住宅金融支援機構の住宅ローン「フラット35」を扱っていたが、商品性に制約があり、独自性を打ち出せなかった。そこで住信SBIネット銀行のシステムを使い、銀行代理業への参入を決めた。家電量販店が銀行代理業の許可を得たのはヤマダHDが初。
住信SBIネット銀の住宅ローンを利用し、ローンの中に家電や家具のローン販売を組み込むなど独自のサービスを提供する。
フラット35との最大の違いは、借入期間が35年から50年、ローン上限が8000万円から2億円となり、最低金利もフラット35の1.29%(15~20年)が、ヤマダネオバンクのローンは新規で0.320%、借り換えなら0.299%(8月1日現在)まで下がる(表1)。
金利収入ゼロのうま味
預金口座や住宅ローンの金利収入は住信SBIネット銀行が獲得し、ヤマダHDの収益は手数料収入のみだが、貸し倒れリスクは負わない。住宅ローン市場にはネット専業銀行も参入し、利幅の薄い市場で過当競争が起きている。しかしヤマダHDは住宅ローンそのものでもうけられなくても、家電や家具、リフォームなどのビジネスに広げられるメリットがある。
「住宅ローンを組むのは人生で1回か2回。そこで関係がで…
残り2125文字(全文4125文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める