インボイス発行事業者は「優越的地位の乱用」に用心 独禁・下請け法違反にも 酒井克彦
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インボイス制度では、消費税の取り扱いを巡って課税事業者と免税事業者との間でトラブルが相次ぐことが予想される。
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取引停止や買いたたき、商品の受け取り拒否──。今年10月からスタートするインボイス制度では、買い手(課税事業者)と売り手(免税事業者)との間で取引上のトラブルが頻発することが予想されている。
インボイス発行事業者に登録した課税事業者にとって、免税事業者との取引では受け取った消費税から支払った消費税を差し引く仕入れ税額控除ができず、消費税分をこれまで通り支払っていると消費税の納税負担が増してしまう。一方、零細の企業や個人が多い免税事業者は、取引先の課税事業者に比べて情報力や交渉力で格差があり、一般的に不利なことを押しつけられやすい。
課税事業者がこうした力関係を利用して免税事業者との取引の中で不当な不利益を与えることは、「優越的地位の乱用」に当たるとして独占禁止法などの問題になる恐れがある。この場合、公正取引委員会から注意を受けたり、程度によっては排除措置命令や課徴金納付命令といった行政処分を受けたりする可能性もある。免税事業者との取引の際には常に念頭に置いておきたい。
独禁法は、公正かつ自由な競争を促進し、事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにする目的を有し、特に親事業者に対して立場の弱い下請け事業者の利益保護や下請け取引の公正化のため下請け法が定められている。では、インボイスについてどのような取引や交渉が独禁法や下請け法上の問題になりうるのだろうか。
「協賛金」など6ケース
公取委は今年7月末までに、インボイス制度の実施に関して、独禁法違反につながる恐れがあるとして、イラスト制作業や人材派遣業、電子漫画配信取り次ぎサービス業、家庭教師派遣業など18事業者に注意している(表)。これらの事業者は免税事業者に対し、課税事業者にならなければ「消費税相当額を取引価格から引き下げる」などと、イラストレーターや漫画家、家庭教師などに対して一方的に通告したという。
インボイスに関係する優越的地位の乱用について、公取委はこうした①取引価格の引き下げのほか、②商品やサービスの受け取り拒否、③協賛金などの負担を求める、④購入や利用の強制、⑤取引の停止、⑥インボイス登録事業者になるような慫慂(しょうよう)──の計6ケースを示している(図…
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週刊エコノミスト
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