日銀がYCCで長期金利を誘導し始めて7年 問題はやめ方 山口範大
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日銀の金融政策を論じるうえで、キーワードとなったイールドカーブ・コントロール(YCC)を分かりやすく解説する。
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イールドカーブ・コントロール(YCC)は、2016年に導入された、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」という金融政策の枠組みの柱となるものである。YCCは、文字通り短期金利だけでなく、国債の「イールドカーブ」をコントロールしようとする政策だ。イールドカーブとは、債券の利回り(金利)水準を残存期間ごとに並べたもので、通常右上がりの曲線となる。YCCにより、短期の政策金利はマイナス0.1%、長期金利(10年債利回り)の誘導目標はゼロ%付近に設定されているため、イールドカーブ上では短期と長期の2点が固定されることになる。
YCCは、イールドカーブの過度な平坦(へいたん)化を防ぐ目的から導入された。イールドカーブが平坦化すると、銀行収益が悪化し、金融仲介機能が低下するほか、年金や保険の運用利回りの低下が、消費者のマインドに悪影響を及ぼすことが懸念されたためだ。加えて、結果的にはYCCの導入により、金融政策のフォーカスが量から金利にシフトする効果もあった。
YCCでは、長期金利に変動の許容幅があり、許容される上限は、過去、プラス0.10%、同0.20%、0.25%、0.50%、1.00%と順次拡大されてきた(図1)。22年以降は、海外金利の上昇や国内のインフレ圧力の高まりを受けて、長期金利が変動許容幅の上限近くで推移する状況が続いており、金利上昇抑制策としての色合いが強くなっている。
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また、YCCの導入に際しては、長期金利をスムーズに目標値へと誘導するため、日銀による「指し値オペ」というオペレーション(公開市場操作)が新たに加えられた。これは、指し値=決まった金利(債券価格)で、日銀が市中から国債を無制限に買い入れる措置のことで、指し値の金利を超える金利上昇(債券価格の下落)を、強力に抑制する効果がある。
YCCとこれまでの政策との違いは、長期金利を直接的にコントロールしようとする点にある。従来、長期金利とはさまざまな要因を受けて変動するものであり、中央銀行は国債買い入れや、将来の金融政策の方針の表明を通じて、長期金利の動向に働きかけることはできても、特定の水準に誘導することは難しいと考えられてきた。
だが、日銀の場合、過去の国債買い入れの結果、YCC導入時点で、日本国債の約40%を保有する状況であったため、市場に対してある程度のコントロールが可能な状況にあった(図2)。また、日本国債の日銀以外の保有は、国内の金融機関などが中心で、発行する国債が安定的に消化される構造にあったことも幸いした。加えて、指し値オペという無制限買い入れの確約もあるため、市場における日銀の存在感の高さと、安定的な国債消化構造…
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週刊エコノミスト
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