知っておきたい ネーチャーポジティブ キーワード10 牧之内芽衣
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環境保全の議論で注目を浴びているネーチャーポジティブについて、10のキーワードで解説する。
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1 ネーチャーポジティブ
生物多様性などの自然資本の毀損(きそん)に歯止めをかけ、将来的には回復軌道に乗せようとする取り組み。生物多様性そのものは、1992年に採択された国連生物多様性条約(CBD)でもその持続可能な利用が目的に盛り込まれるなど、長く注目されてきた。ネーチャーポジティブという表現が使われ始めたのは2020年代に入ってからである。20年に世界経済フォーラム(WEF)が「自然の損失によって、世界のGDP(国内総生産)の半分以上にあたる約44兆ドル(約6470兆円)が潜在的に脅かされている」と発表し、注目された。
沿岸域の藻やサンゴ礁などの多様な生態系は、それ自体がさまざまな海洋生物を育むゆりかごとしての役割も果たしているほか、二酸化炭素(CO₂)を吸収する働きもあるなど、気候変動対策とも極めて関係が深い。
2 昆明・モントリオール生物多様性枠組み
2022年12月にカナダのモントリオールで開かれた生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で採択された生物多様性に関する世界目標。ポスト20年生物多様性枠組み(GBF)ともいう。
「自然と共生する世界」を目指す50年ビジョン、「自然を回復軌道に乗せるために生物多様性の損失を止め反転させるための緊急の行動をとる」30年ミッション、そしてそれらの具体的なゴールを描いた50年グローバルゴール、30年グローバルターゲットなどで構成されている。成果を測りやすくするため、前身の愛知目標(生物多様性の損失を止めることを目的としてCOP10で策定された20の個別目標)と比べて多くの数値目標が掲げられた。
3 30 by 30
2030年までに陸と海それぞれ30%以上の面積を保全するという世界的な目標。「サーティー・バイ・サーティー」と呼ぶ。「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」にも記載されている。
前身となるのは10年に日本で開催されたCOP10で「愛知目標」として設定された20の個別目標だ。その一つ(目標11)に、「20年までに、少なくとも陸の17%、海の10%を保護地域等として保全する」という目標がある。この目標は世界全体で達成され、日本では23年1月時点で陸域の20.5%、海域の13.3%が保護地域として保全されている。
保護地域を陸・海ともに30%まで拡大するため、環境省が22年4月に公表した「30 by 30ロードマップ」では、国立公園など保全地域の拡大が計画されている。そのほか、民間の取り組みなどによって生物多様性の保全が図られている区域を「OECM(自然共生サイト)」として認定する制度が23年4月からスタートしており、生物多様性の保全に向けたポジティブな効果の波及が期待される。
4 ネーチャー・ベースド・ソリューション(NbS)
自然の力を利用して、生態系と人間いずれにも利益をもたらす方法で社会的課題を解決するという考え方を指す。国際自然保護連合(IUCN)が09年より提唱を始めた。マングローブ林の保全によって洪水被害を軽減するなどの例が挙げられ、気候変動問題にも利用し得る。日本語では「自然に基づく解決策」と訳される。
生物多様性と生態系サービスに関する動向を科学的に評価する政府間組織「IPBES」は、30年までの地球の平均気温上昇を2度以内に抑えるための気候変動緩和策のうち、37%はNbSにより解決できるとの考えを示した。
一方で、気候変動問題はNbS単独で解決…
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週刊エコノミスト
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