経済・企業

インタビュー「北米充電インフラは混乱に陥る」姉川尚史チャデモ協議会会長

 世界のEV急速充電市場で、充電規格を巡る合従連衡が熱を帯びてきた。背景には何があるのか。「日本のEV充電インフラの父」姉川尚史チャデモ協議会会長に真相を聞いた。(聞き手=稲留正英・編集部)

あねがわ・たかふみ 1957年熊本出身、83年東京大学大学院(原子力工学)修了、東京電力に入社。2002年以降富士重工業(現SUBARU)などと電気自動車を開発。10年3月にCHAdeMO協議会を設立し、事務局長就任。19年6月同会長、19年10月イーモビリティパワー会長。東京電力ホールディングスフェローも兼務。

>>特集「EV戦争2023」はこちら

── 電気自動車(EV)の急速充電規格競争で、北米で米テスラの主唱するNACS(北米充電規格)方式を採用する動きが日米欧のメーカーの間で広まっている。日本発のCHAdeMO(チャデモ)規格は国際競争で不利な立場になりつつあるのではないか。

■充電インフラについてのマスコミの関心の持ち方について、私は違和感を持っている。まず、チャデモ協議会は充電インフラでもうけているわけではないということだ。欧州や北米規格のCCS(編集部注:米国はCCS1、欧州はCCS2でコネクターの形状が違う)に勝って、イーロン・マスク氏のように金持ちになろうという気はないし、日本の充電規格が海外で採用されたからといって、日本の自動車メーカーが有利になることもない。

 それでは、チャデモ規格が何を競っているかというと、EVの充電の利便性を高めて、利用者が困らない充電規格を世に広めることだ。

 もし、CCS規格なり、テスラの提唱するNACS規格がチャデモより優れ、ユーザーのニーズを満たしストレスなく充電できるならば、チャデモは消え去ってもしょうがない。私は日本製至上主義ではないし、じだんだを踏むつもりもない。

 だが、まさに充電性能で問題が多いCCSや、まだ、海のモノとも山のモノとも分からないNACSについて、不利益を被るはずのユーザーがそれを支持するという奇妙な風潮に危機感を持っている。

── ユーザーの利便性ではチャデモ規格が一番優れていると。

■世界中のEVユーザー友の会に行って、どの規格がいいかと聞くと、みんなチャデモがいいという。そのチャデモが無くなるということは、EVが使いにくくなるということだから、そこは、負けられないと思っている。

 マスコミの方が、地球環境保全のために、EV普及を応援してくれるのであれば、順調に充電できるチャデモが無くなって、一方で、米テスラやGMがこれから作ろうとしているNACS規格が北米でうまくいかなかったら、EVの時代が来るのに、また、3年、6年と余計な時間がかかってしまう。これは不都合だ。

「確実に充電できる」価値

── CCSやNACSに対するチャデモの技術や使い勝手での優位性は。

■充電で一番重要なのは、当たり前だが、確実に充電できることだ。テスラの充電器は「プラグ&チャージ」で課金が自動的に行われるとか、充電口が自動で開いて便利だとか、世間でいろいろと言われるが、それが問題の核心には思えない。なぜなら、ガソリン車は世界中に普及しているが、給油口に給油ノズルを差し込めば、自動的に課金されるガソリンスタンドなど一軒もないからだ。また、給油口が非接触だとか、自動的にノズルが給油口に刺さるガソリンスタンドも一軒もない。

 つまり、ガソリンスタンドで最も重要なのは、確実に給油できることだ。急速充電の世界におけるチャデモの優位性はまさにこの確実に充電できる部分にある。

── テスラの規格でも確実に充電できると思うが。

■チャデモは複数の自動車メーカーの車と複数の充電器メーカーの充電器の間で、n対nで充電しようとしている。この部分はCCSも一緒だが、テスラはテスラの車と充電器の1対1の関係だ。ここが質的に全く違う。

 テスラの充電器は、デジタルカメラや米アップルのiPhoneと同じだ。リチウムイオン電池は下手な充電をすると危険だし、電池の寿命を縮める。そこで、カメラメーカーやアップルは、自分で充電池のサプライヤーを決め、性能を全部確認し、充電器も自社で調達している。

 ところが、EVの充電インフラはそうはいかない。なぜなら、自動車メーカーは複数あるし、電池はそれぞれのメーカーが気に入ったものを使っている。また、業界全体でみると電池の競争が無くなると、EVの技術進歩も価格低下も期待できなくなる。

 そこで、n対nでもきちんと充電できる仕組みをチャデモは作った。チャデモは充電口の形状が特許と誤解されているが、そうではない。特許でもうけるつもりがなかったから、世界特許は取らなかったが、国内では特許を取得した。その内容は、コネクターの形状ではなくて、n対nでどう通信して、どう充電をコントロールするか、という部分にある。

 EVの場合、車自身が電池の性能を一番よく知っている。リチウムイオン電池も化学組成により性能に「松竹梅」があり、それぞれ、どれくらい電気を充電できるかが違う。気温や充電状態にも、充電電圧は左右される。電池を壊さないように安全に、かつ、速く充電するためには、電池の状態を全部、集中管理して知っておかないといけない。車側は電池の状態を充電中、ずっと見ている。例えば、最初は100アンペアの電流で充電していても、電池の温度が上がってきたら、90、80、70アンペアと電流を下げる指示を与える。充電器はその指示に応じ、電流や電圧をコントロールする。この仕組みがチャデモだ。

── 車と会話する仕組みがチャデモの核心と。

■そうだ。…

残り2316文字(全文4616文字)

週刊エコノミスト

週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。

・会員限定の有料記事が読み放題
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める

通常価格 月額2,040円(税込)

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

5月14日・21日合併号

ストップ!人口半減16 「自立持続可能」は全国65自治体 個性伸ばす「開成町」「忍野村」■荒木涼子/村田晋一郎19 地方の活路 カギは「多極集住」と高品質観光業 「よそ者・若者・ばか者」を生かせ■冨山和彦20 「人口減」のウソを斬る 地方消失の真因は若年女性の流出■天野馨南子25 労働力不足 203 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事