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マーケット・金融 円安亡国

ビッグマックが900円になる日――円安インフレの悪循環が始まった 佐々木融

 物価や賃金の差を考慮した理論値は1ドル=80円なのに、なぜ一時、150円台と現実には大幅な円安なのか。米国に比べ下がりすぎた物価や賃金の上昇で、調整が始まる。

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「ドル・円相場の分析に購買力平価は使えなくなったのか?」──。これは最近よく耳にする質問だ。たしかに、現在の日本と米国の物価や賃金の差を考えると、1ドル=80円でもまだやや円安気味で、実際の購買力平価は70円台かもしれない。

 もちろん、全てのモノやサービスが日米間で交換可能なわけではないので、実際の為替相場が常に購買力平価の水準に近いところで推移するわけではない。しかし、昨年以降の円相場(10月初旬に一時1ドル=150円台)は異常なまでの円安水準となっており、修正される気配がない。

誰も買わない「安い円」

 日本の貿易相手国との為替相場とインフレ率の差を勘案した、円の実質実効レートでみると、現在の円は1970年以来50年以上ぶりの安値となっており、過去50年間、30年間の平均と比較しても4割割安となっている。

 つまり、円は対ドルだけでなく、その他の通貨に対しても大幅に割安となっているのである。なぜ日本の通貨である円は、他国の通貨に対して4割も割安となっているのか。また、違う問い方をすれば、なぜここまで歴史的な割安水準となっても一向に修正されなくなっているのだろう。

 簡単に答えるならば、「4割も安いのに誰も円を買おうとしないから」だ。わざわざ割安だからといって、東京・丸の内でビッグマックを食べるために米ニューヨークのマンハッタンから日本にやってくる人はいないだろうが、ここまで割安となった日本でも、金利もなければ、人口も減少傾向なのだから、日本人の投資資金も戻ってこないし、海外からの投資資金も入ってこない。

 また、世界全体の流れである保護主義や環境規制という動きの中で、日本が犠牲になっている側面もありそうだ。どんなに日本で生産する方が割安でも、欧米の保護主義や環境規制で、欧米での生産を続けるしかないケースもあると考えられる。また、移民を受け入れないという保護主義もあって、労働者不足となっている日本には、そもそも生産拠点を戻すこともできないとも考えられる。

 それでは、購買力平価は使えなくなったのだろうか?筆者はそうは考えていない。購買力平価は人の行き来やモノやサービスの貿易が活発に行われている下では、ある程度為替相場のアンカーになるはずである。だから、最終的には購買力平価は役に立つと考えている。

 ここからのドル・円相場の購買力平価への収斂(しゅうれん)は全く異なる二つの道がある。一つ目は単純に名目の為替相場が円高になる道だ。もう一つは日本の物価が米国の物価に追いつく道である。

 筆者が今年5月にマンハッタンのミッドタウンで調査したビッグマック価格は6.19ドルだった。1ドル=150円で計算すると約928円(150×6.19)になる。日本の都心部のビッグマックの価格500円と、マンハッタンの価格6.19ドルを用いて計算したドル・円相場の購買力平価は1ドル=約81円(500÷6.19)となる。つまり1ドル=81円であれば、マンハッタンでも丸の内でもビッグマックの価格は同じになるということだ(図1)。

 このビッグマックの例を使って説明すると、購買力平価に収斂する一つ目の道はドル・円相場が1ドル=81円まで円高になる道だ。もう一つの道は、日本の都市部のビッグマックが928円まで値上がりして(マンハッタンのビッグマックが値上がりしなければ)、1ドル=150円が購買力平価(928円÷6.19ドル)となる。

 日本を取り巻く環境をみると、購買力平価への収斂は後者、つまりビッグマックが928円に値上がりすることによって、1ドル=150円が購買力平価となる可能性が高くなっていると考えられる。

 日本は世界に先んじて若者の数が減少するため、労働市場はかなりタイトになる。今後労働市場に参加してくる10代の人口は、労働市場から退出していく50代の人口の6割しかいない。

 そうした中で日本の平均年収は米国の4割、オーストラリアの半分程度でしかなく、韓国よりも10%低い。今後、日本企業は人材を確保するため、賃金を引き上げざるを得ない。そのためには自社の製品やサービスの価格を上げざるを得ないだろう。その結果、日本のインフレ率は比較的高水準が続くと考えられる。

電気機器が貿易赤字に

 日本の人件費を含むコストがこれだけ割安でも、日本企業は生産拠点を本格的に国内にシフトすることもないし、海外からの投資…

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