行き過ぎた円安の揺れ戻しは1ドル=120円前後か 竹中正治
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日米の金利格差の拡大と、円相場を巡る経常的な為替需給の構造的な変化の二つで、ドル・円相場を解説する。
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大幅な円安・ドル高相場が続いている。1ドル=140円台後半の相場は過去に何度もあったが、それは名目相場のことだ。日米のインフレ率を調整した後の実質ドル・円相場指数で見ると、図1が示す通り大幅な円安・ドル高相場だ。経済的な意味合いでは実質ドル・円相場指数こそ重要だ。
特に現在の実質ドル・円相場指数の水準が、その長期移動平均値(期間15年)からかつてない程大幅にドル高・円安方向に乖離(かいり)していることに注目しよう。この大幅な乖離はいずれ調整局面(円高・ドル安への回帰)が到来することを示唆している。
これだけの円安・ドル高相場の原因については、①日米の金利格差の拡大、②円相場を巡る経常的な為替需給の構造的な変化の二つで、ほぼ説明ができるだろう。まず金利格差の面から見てみよう。
日米の金利差拡大
図2は、2022年1月から足元の今年9月29日まで日米の10年物国債利回り格差とドル・円相場(名目)の変化を週間データで単回帰したものだ。横軸に日米金利格差(%)の前週末比の変化(差分)、縦軸にドル・円相場の前週末比の変化(%)を取った。ただし、週次の変化はノイズも大きいので、5週間移動平均値で示している。
米国の予想を超えたインフレ高進で米連邦準備制度理事会(FRB)がドル金利を引き上げ始めた22年3月以降、日米金利格差が拡大するとドル高・円安に、金利格差が縮小するとドル安・円高に動く正の相関関係が明瞭だ。0から最大で1までの値を取る正の相関係数(R)は0.79と高い。
また、相関係数を2乗して算出する決定係数(2R)0・63で、これは日米金利格差の変化でドル・円相場の変化を約63%説明できることを意味する。
さらに分布の近似線の傾きは8・6である。これは日米金利格差1%の変化にドル・円相場8・6%の変化が対応していることを意味する。金利格差を反映して為替相場が変動することは、国際金融論の「金利平価原理」と呼ばれる標準的な理論の通りだ。原理の命題は二つに分けて理解できる。
第一、その他の条件が変わらない場合、金利格差が拡大すると、金利が上がる通貨の相場が他方の通貨に対して上昇する。
第二、金利格差が一定の場合は、時間の経過に伴って高金利の通貨の相場は低金利の通貨に対して、金利格差の分だけ低下する。
つまり、昨年来のドル・円相場の週次の変化は、この第一の命題が働いている。ただその度合いが非常に強く、円相場は日米金利格差次第という状況になっている。
これほど強い金利相場は、1980年代前半にもあった。米国は70年代末の第2次オイルショックで80年代初頭の消費者物価の上昇率が10%を超えた。高インフレを終息させるためにボルカーFRB議長(当時)は…
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週刊エコノミスト
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