“利上げでもドル安”だった90年代半ばの米国を教訓に今こそ「強い円政策」を 長谷川克之
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日銀が金融政策の見直しを前倒しで実施する可能性が浮上している。しかし、長期金利が「リスクプレミアム」によって上昇すれば円安を止めることはできない。
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円安圧力が止まらない。米連邦準備制度理事会(FRB)は9月の政策会合では利上げを見送ったものの、追加利上げに含みを残した。市場が期待する早期かつ大幅な利下げは望み薄であることも示唆された。FRBのメッセージは“Hihger for Longer”、すなわち米金利は高い水準が長く続くだろうということだ。確かにインフレは徐々に落ち着きつつあるものの、先行きは不透明であり、目標の2%にもまだ距離がある。金利面からは一義的にはドル高圧力が続きやすい。
国民求める物価高対策
日本政府は円安に対する警戒感を強めており、財務相や財務官が「口先介入」を繰り返している。円安が続けば、口先にとどまらず、政府・日銀が昨秋同様に実際にドル売り・円買い介入に踏み切るのも時間の問題だろう。
今後の焦点は日銀の金融政策である。物価を取り巻く環境が変わり、そして何よりも植田和男氏が黒田東彦氏に代わって日銀総裁に就任したことにより、日銀が機動的に対処する余地が生じている。植田総裁は9月、読売新聞のインタビューで年末までにマイナス金利政策を解除する可能性に言及した。市場にとっては想定外のシナリオだが、植田総裁が円安に対するけん制を意識して異例の発言を行った可能性もある。
世論調査では国民が求める最優先課題は物価高への対策であり、岸田文雄政権は近く新たな経済対策も策定する。中央銀行が円安を放置する姿勢を続けることは政治的にも、経済的にも無理がある。日銀はインフレの帰趨(きすう)を見極める上で、賃金の動向を重視しているが、減税措置等によって「持続的な賃上げ」の実現を目指す経済対策はマイナス金利解除を促すものとなろう。
それでは日銀の政策修正は円安を止めることになるのか。
そもそも連続的かつ大幅な政策修正が期待できない中では、円安の抑制効果は一時的なものとなる公算が大きい。加えて、長期金利の上昇が必ずしも円高要因とならず、むしろ円安要因となる可能性すらある。想起したいのは1990年代半ばの米国の歴史である。
FRBは89年以降、10%弱に達した政策金利を一貫して引き下げ、92年以降はインフレ率を下回る、当時としては異例の超低金利水準である3%に据え置いた。実質マイナス金利政策の採用である。その背景には、三つのL、すなわち、LDC(発展途上国向け融資)、LBO(買収先資産担保融資)、LAND(不動産融資)が焦げ付き、経営不安に見舞われた米銀への金融面での支援があった。
FRBは米銀の経営が安定を取り戻し、「米銀の復活」を確認した上で、94年2月に約5年ぶりの利上げに転じ、金融政策の正常化に踏み切ることになる。為替市場ではFRBの…
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週刊エコノミスト
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