通貨独自の性質に左右される為替相場 理論が発展しても予測困難 小玉祐一
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時々刻々と変動する為替相場。今後の展望を推し量ろうと、さまざまな経済理論が模索されてきた。
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為替相場は通貨の需給で決まる。ただ、その背景にはさまざまな変動要因が存在し、どの要素が強く影響するかは、通貨の種類はもとより、長期か短期かといった期間、その時々の政治・経済情勢などで変わる。
古典的な「購買力平価」
そうした中でも、過去、重要と考えられる要素を取り上げ、為替相場の決定要因を説明しようとするあまたの理論が構築されてきた。購買力平価説はその代表格である。同じ大きさ、品質のハンバーガーの価格が米国で1ドル、日本で100円なら1ドル=100円になるという考え方だ。20世紀初めに誕生した古典的な学説だが、シンプルで直感的に理解しやすいのも手伝って、今なお広く活用されている。ただ、国家間の商品価格の裁定には長い時間がかかるため、短中期の変動理由の説明としては、単独では使えない。
短中期の決定理論として固定相場時代に発展したのが、2国間の国際収支に注目したフロー・アプローチである。財(モノ)やサービスの取引を示す経常収支と、その裏側にあるカネ(資本)の流れを示す資本収支(両者の収支尻は概念的に一致する)の不均衡が調整されるように為替相場が決定されるという考え方である。しかし、変動相場制移行後、資本取引の規模が経常取引に比べて著しく大きくなると、ある期間の取引を示すフローよりも、結果として蓄積された金融資本の大きさで説明しようというアセット・アプローチが優勢になった。
出発点となったのがマネタリー・アプローチである。ここでの為替相場は、マネーストックとしての通貨の相対価格である。マネーストックは物価の変動要因であり、これにより購買力平価を短中期の理論に取り込んだのが特徴である。これを拡張したモデルからは、物価の動きが金利よりも遅いことで、一時的に為替レートが均衡水準から大きくジャンプアップ(オーバーシューティング)する可能性なども示される。マネーストックの差が為替に影響するという点は、グラフ上もよくフィットすることから、考案者の名前にちなみ、「ソロスチャート」として市場関係者の間で人気を集めてきた。
マネタリー・アプローチも購買力平価の成立が前提になるが、その説明力が弱いことが明らかになると、商品の裁定より金融資産の裁定により重きを置く理論が発展した。金融資産の裁定には、リスクに対する上乗せ金利であるリスクプレミアムが影響する。これを経常黒字・赤字の大きさなどで説明したのがポートフォリオバランス・アプローチである。
こうした為替相場の決定理論は、ブレトンウッズ体制(金・ドル本位制)の崩壊で多くの国が変動相場制に移行した1970年代に急速に発展、80年代までには一通り行き着くところまで行き着いた。ただ、結果として明らかになったのは、為替相場が…
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週刊エコノミスト
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