経済・企業

米中新冷戦を伏線に続く“地政学ドミノ”が迫る脱“低インフレ・低金利” 長谷川克之

低インフレ、低金利を前提とした財政・金融政策運営からの転換を迫られる(岸田文雄首相〈左〉)
低インフレ、低金利を前提とした財政・金融政策運営からの転換を迫られる(岸田文雄首相〈左〉)

 中東が1973年の第4次中東戦争以来の50年ぶりの危機に瀕(ひん)している。第二次世界大戦後最大の安全保障危機とされるロシア・ウクライナ戦争の収束がいまだ見通せない中でのことだ。2018年の貿易摩擦激化に端を発する米中新冷戦、20年の新型コロナウイルス感染拡大、そしてウクライナと中東での戦争。世界は地政学リスクが連続的に顕在化する「地政学ドミノ」に直面している。

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 地政学ドミノの底流には、世界の覇権国としての米国の地位低下と内向き志向に伴う世界の分断がある。中東でかつて圧倒的な存在感を誇った米国は、外交・軍事資源をアジア太平洋にシフトさせつつある。経済・技術面での米国の覇権を脅かし、軍事面でもアジア域内で拡張路線をとる中国を念頭に入れた米国の戦略転換である。

 米国が企図した中東地域の新たな安定化策が、イスラエルとサウジアラビアの関係改善だが、両国の接近への反発がイスラム組織ハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃の一因にある。イスラエルとサウジの関係改善は、米国がインドとともに進める「新経済回廊構想」の一翼を担っている。構想はサウジ、ヨルダン、イスラエルなどを経由してインド、中東、欧州をつなぎ、中東で存在感を強めつつある中国が主導する巨大経済圏構想「一帯一路」に対抗するものである。

拡大するリスクプレミアム

 中東危機の経済・金融市場への影響を考える際には、まずは戦火が域内に広がり、原油の供給が途絶するかに注目される。油価上昇が物価上昇、ひいては金融政策、そして景気の先行きに大きな影響を及ぼすことは論をまたない。加えて、中長期的により注意を要するのは、地政学ドミノと国際秩序の揺らぎによる世界的な「リスクプレミアム」の拡大である。

 振り返れば、経済・金融市場のグローバル化が進展したのは、戦後の米ソ冷戦構造が緩んだ80年代半ば以降のことだ。旧ソ連での経済自由化、東欧諸国の民主化を経て、89年にはベルリンの壁が崩壊、冷戦終結が宣言された。世界は平和の配当を享受し、軍事費用の抑制・削減も可能となった。この経済・金融市場のグローバル化と平和の配当こそが投資にお…

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