週刊エコノミスト Online 自然保護
生物多様性の新たな保全活動「30 by 30」とは? 土守豪
有料記事
生態系の保全・回復は経済効果ももたらすが、環境省の推進する制度に対する企業の認知度が低いといった課題がある。
認知度向上にあの手この手
環境省が提唱する生物多様性の保全活動「30 by 30」(サーティー・バイ・サーティー)という取り組みが、今年度から本格化している。これは生物多様性を回復させるため、2030年までに国の陸と海の30%以上を健全な生態系として保全するという活動だ。特に今年度からは、活動の柱となる企業や公益法人などの土地の認定制度(生物多様性を保全・回復した土地を認定)がスタートしている。しかし、認知度が低いことや、企業への優遇措置(インセンティブ)がないなどの事情から、活動が広がっていないのが現状だ。
昨年12月にカナダ・モントリオールで国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)が開かれ、「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」が採択された。この中に「30 by 30」も正式に盛り込まれ、日本では環境省が中心となってこの活動を本格化させている。
注意したいのは、昆明・モントリオール生物多様性枠組みの採択によって、地球温暖化問題と同時に、生物多様性の取り組みの重要性が一段と高まっているという点だ。国連の「持続可能な開発目標」(SDGs)は、クリーンエネルギーの活用や貧困撲滅などが注目されがちだが、SDGsには陸と海の生物多様性の豊かさを守るという目標もある。
国連は、地球温暖化を抑制するための「産業革命後の気温上昇を2度未満(努力目標1.5度以内)に安定化」させるという目標実現の費用対効果の高い対策として、30年までに各国が国内の約30%の森林や湿地などを保全・回復することを指摘。環境省の資料によると、野生ハチなどの花粉媒介生物は、国内で年間3300億円の経済効果をもたらすと試算しており、森林の豊かな栄養は河川を通して海の生産性を向上させ、災害にも強くなるとしている。
「自然共生サイト」認定
日本は21年度末時点で、陸域の20.5%、海域の13.3%が国立公園などの保護地域として保全されている。保護地域とは、自然公園法、自然環境保全法、鳥獣保護法、森林法、水産資源保護法などの制度に基づいて指定されている地域を指す。
環境省は前述の「30 by 30」の目標「陸域の30%、海域の30%で生物多様性保全」の達成のため、昨年10月に陸域の残り約10%分を、民間などの緑地を活用して達成させる計画を策定している。なぜなら、昆明・モントリオール生物多様性枠組みで、前述の法律による保護地域のほか、「OECM」(保護地域以外で民間の自主的取り組みにより生物多様性保全を育む地域)も、「30 by 30」の対象となったからだ。
日本ではOECMを「自然共生サイト」と呼んでおり、環境省は企業などからの申請を受けて審査し、国連が定めた基準を満たせば、自然共生サイ…
残り1578文字(全文2778文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める