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市場に追い詰められる日銀 マイナス金利解除は前倒しか 窪園博俊
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日銀が10月末の金融政策決定会合で、大規模緩和を再修正した。日銀は7月に政策修正を行ったばかり。3カ月あまりで再修正したのは、金利上昇と円安が一段と進行したからだ。要は「市場圧力に屈して政策修正を余儀なくされた」(大手邦銀)わけだ。市場圧力はなお根強く、「マイナス金利解除も前倒しになる」(同)との観測も浮上する。
10月末に大規模緩和を再修正するも1ドル=151円台後半に
日銀は7月、イールドカーブ・コントロール(YCC、長短金利操作)の運用について、「0.5%」に設定していた長期金利の上限を「1.0%」に引き上げた。米長期金利の上昇で日米金利差が拡大。外為市場で円安が進行したからだ。植田和男総裁は会見で、「為替市場のボラティリティー(変動性)も含めて考えた」と述べ、円安配慮であることを認めた。
日銀は1.0%への大幅引き上げで「日米金利差拡大に歯止めがかかり、円安圧力も後退する」(幹部)と期待した。ところが、金利差は開く一方となった。米国のインフレは根強く、「米連邦準備制度理事会(FRB)の金融引き締めが長期化する」(外資系金融機関)との観測が台頭したのだ。
7月下旬の米長期金利は4%前後だったが、10月中旬には一時5%台に急騰。インフレ懸念のほか、国債増発観測も米金利上昇に拍車をかけた。日銀には「想定外の米金利上昇」(植田総裁)となり、日本の長期金利は上限の1%に接近。円相場は1ドル=150円台後半まで下落し、日銀は10月末に政策再修正に追い込まれた。
だが、この再修正は「完全な不発」(外資系ファンド)に終わった。修正内容が「極めて限定的だった」(同)からだ。長期金利の上限はこれまでの「1.0%」から「1.0%めど」に変わった。これは1.0%を厳格な上限とせず、それをやや超えることも容認する、というものだ。
強まるインフレ批判
日銀が不運だったのは、直前に「1%超えを容認する」とのリーク報道が出たことだ。金融市場では「1.5%程度まで上限が引き上げられる」(FX業者)との観測が台頭。円相場は一時、148円台まで買い戻された。ところが、従来とほとんど変わらない修正内容となり、一転して円相場は151円台後半まで売り込まれた。
その後の金融市場では、11月3日の米雇用統計が弱い内容となり、米長期金利が低下。日米金利差の縮小で円安は一服した。日銀にとってはとりあえず一安心といったところ。今回の米雇用統計の弱さがFRBの利下げ判断につながれば、日銀には理想的な展開であろう。だが、相場動向は「なお予断を許さない」(別の大手邦銀)とみられる。
米雇用統計は振れやすい指標でもあり、FRBは「単発の指標で判断せず、インフレ率が十分に下がるまで、長く高金利を続ける可能性もある」(同)からだ。その場合、日米金利差は開いた状態が維持され、再び円安圧力が強まる公算が大きい。
現状、…
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週刊エコノミスト
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