インドで広がるCSR活動 貧困・飢餓の撲滅へ企業が存在感 松本勝男
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世界で初めて企業のCSR活動を義務化したインド。進出する日系企業を含め、国民の生活・教育環境を改善する取り組みの重要な担い手となっている。
5年間で支出総額8割増 ペナルティー制も導入
経済成長が目覚ましく、国際社会で存在感を高めるインド。ただ、国民生活の水準は向上しているものの、いまだ多くの貧困層を抱えており、生活・教育環境などの一層の改善には政府の手が及ばないところも少なくない。そうした社会課題への取り組みの担い手として、インドでは今、企業のCSR(企業の社会的責任)活動が存在感を高めており、企業と社会のあり方にも一石を投じている。
インドで企業がCSR活動に充当する金額は増加を続けている。インド企業省によると、2021年度(21年4月〜22年3月)のCSR支出額は2593億ルピー(約4600億円)と、16年度に比べて8割増となった(図)。21年度の支出額は、インドに対する最大の開発協力機関である世界銀行の、同国への年間貸付実行額に匹敵する規模となっている。
契機となったのが、世界で初めて企業のCSR活動を義務化した13年の会社法改正である。この改正法では、純資産額50億ルピー(約90億円)以上、年間の売上高100億ルピー、純利益5000万ルピー以上という、いずれか一つの基準に該当する企業に対し、CSR活動の実施を義務付けた。この基準に該当する企業は、直近3カ年の税引き前利益を算出し、その平均額の2%をCSR活動に充てなければならない。
これは外国企業の現地法人も同様であり、各企業は支出状況を公表する必要がある。CSR義務化の対象企業数はここ数年、約2万社前後で推移しており、インド国内の上場企業数の約4倍弱に当たる。インドではCSRという概念が提唱される以前から、チャリティーなどの形で企業の社会貢献活動が行われていたが、その役割の大きさに着目して法律によって制度化することになった。
法改正により、CSRの対象活動も明確化された。支出の対象となる活動は飢餓や貧困の撲滅、安全な飲料水の確保、教育の促進、女性や障害者の雇用、高齢者の福祉、環境保護、文化遺産の保護など計11項目で、地域住民や生活水準が低い脆弱(ぜいじゃく)層などに対して行う必要がある。従業員の福利厚生や企業活動を通じた二酸化炭素排出削減など、従来型のCSR活動は義務化の対象には含まれない。
マルチ・スズキも本腰
CSR制度化を実現するに当たり、インド政府は企業の社会的責任を強化する政策を進めてきた。07年に策定した第11次5カ年計画では、貧困の削減などを柱とした「包括的成長」(inclusive growth)の重要性をうたい、09年には企業統治の強化を図るガイドラインを策定した。さらに、11年には社会・環境・経済面の責任ある企業行動に関するガイドラインを発出している。
一方の産業界もCSRを主流…
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週刊エコノミスト
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