海外子会社との取引で要注意 移転価格税制と寄付金課税 多田恭章
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親会社が海外子会社に製造技術や商標を使用させたのにロイヤルティーを受け取らなかったり、子会社への出向社員の給与を負担したりすると、申告漏れを指摘されるリスクがある。
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経済のグローバル化に伴い、近年では大企業のみならず、中堅・中小企業でもアジア地域を中心に海外子会社を設けて海外進出するケースが増加している。こうした流れを受け、最近では海外子会社を有する中堅・中小企業が税務調査のターゲットとなるケースが増えている。グループ会社間では、取引価格を操作して利益を国外に移転したり、子会社を支援するために経済的利益を無償で供与したりするといった行為が行われやすいためだ。
海外への利益移転を防ぐための代表的な制度は「移転価格税制」だ。移転価格税制とは、企業が海外子会社との間で大幅に低い価格で取引するなどし、企業の課税対象となる所得(「益金−損金」で計算される法人税法上の利益)を減少させた場合に、その取引が独立した企業間の通常の取引価格で行われたものとみなして所得を再計算する制度をいう。本来は国内で課税するべき所得が、税率の低い国などに移転するのを防ぐ目的で導入されている。
最近の例では2023年11月に自動車用ホースメーカーの「ニチリン」(神戸市)が、ベトナムなどアジア圏の子会社との取引を巡り、大阪国税局から約11億円の申告漏れを指摘されたことが報じられている。これは移転価格税制が適用されたもので、ニチリンが海外子会社に販売した部品代金などが適正価格より安く設定され、日本で計上すべき利益の一部が海外に移転したと判断されたようだ。
この移転価格税制と並んで、注意しなければならないのが「寄付金課税」だ。海外子会社との取引において、海外子会社に対して経済的利益を無償で供与したような場合には寄付金課税を受けることとなってしまう。もし海外子会社への寄付金に当たるとされた金額は、その全額が損金不算入となってしまう。
営業利益率に着目
移転価格税制というと、大企業向けの制度とイメージしがちだが、国税当局は近年、海外進出を進める中堅・中小企業に対しても監視の目を光らせている。
国税当局が移転価格調査をするかどうかを判断する一つのポイントは、海外子会社の「営業利益率」の水準だ。例えば、日本の親会社の営業利益率が7%であるのに対し、海外子会社の営業利益率が15%であれば、日本の利益が海外に移転しているのではないかと疑われることになる。このように海外子会社の営業利益率が高すぎないかどうか、チェックしておくことが重要といえそうだ。
最近の課税事例で多く見られるのが、ロイヤルティー(使用料)の徴収漏れだ。親会社が製造技術や商標などの無形資産を保有し、それらを海外子会社に使用させるケースが多く見られる。その場合には無形資産の使用許諾の対価としてロイヤルティーを収受することとなるが、ロイヤルティーの回収が不十分であったり、全く回収していなかったりするような場合には、移転価格の問題が発生する。親会社がもらうべきロイヤルティーをもらわなかったため、その分だけ所得が海外に移転したとみなされるからだ(図1)。
海外子会社への出張も移転価格課税の対象となることがあるので注意が必要だ。例えば、海外での事業拡大のため、人件費の安いアジア地域に製造子会社を設立したとしよう。このような製造拠点の設置当初においては、子会社の技術水準向上のため親会社から技術スタッフなどが派遣され、現地で技術指導などの役務提供を行うケースがよく見られる。
この場合、役務提供の対価を海外子会…
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週刊エコノミスト
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