改正電帳法の本格施行は税務調査を厳格化するか 松嶋洋
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データ保存が義務化されても、脱税などの不正取引を行わないという大前提の対策は今までと変わらない。
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改正電子帳簿保存法が2024年1月に本格施行され、電子取引のデータ保存が義務化される。この改正は、経理実務に大きな影響を与えるといわれる。電子取引とは、経理資料を電子でやり取りする取引のことだ。例えば、電子メールでPDFの請求書を送受信したり、アマゾンなどの通販サイト上で購入した際に受け取る領収書を電子データでダウンロードしたりする取引をいう。
電子取引はどの事業者もごく自然に、そして大量に行っているものだ。改正法では、電子取引を行った場合、原則として、①そのデータを改ざんされないようにしたり(真実性の確保)、②所定の項目で検索できるようにしたり(検索要件)する措置を行った上で保存する義務がある──とされている。一方で、これらの措置を実施するとなると、事業者内のシステム対応など多大なコストがかかるため、大きな問題が生じる。
23年末まではこうした点を踏まえ、「所定の事由」があれば、電子取引のデータをプリントアウトした紙で保存しても問題ないという経過措置が設けられていた。24年からは電子取引のデータ保存が義務化されることになったが、新たな特例も設けられることになり、その特例の要件を満たせば義務化に伴う労力を大きく削減できるとされている。
この特例の要件とは図の①〜③の全てを満たすことで、真実性の確保や検索要件を問わず、データをそのまま保存できるようになる。つまり、データをプリントアウトした上で、サーバーにデータをそのまま置いておくだけで足りるため、大きな負担にはならない。このため、ほとんどの企業がこの特例を使うと予想されている。税務調査の現場では、この新たな3要件を満たすかどうかが厳しくチェックされるといわれている。
とはいえ、税務調査でこの点を細かくチェックされることは基本的にはないだろう。実際のところ、電子取引のデータ保存義務化に対して、税務当局はあまりやる気がないからだ。税務調査においては、納税者の取引について事実確認が行われる。電子データであろうと紙であろうと、事実確認ができることには変わりがないため、税務当局にとっては紙でも電子データでもどちらでも問題ない。
現実離れした法律
むしろ、税務当局自体のIT化が発展途上で、職員のITに対する知識もまだまだ乏しい組織なため、彼らにとっては電子データよりも紙で資料を見せてもらった方がうれしいくらいだ。本気でやる気がないなら、納税者に負担を強いる法律を作るべきではないが、残念なことに法律を作るのは国税庁の上級官庁である財務省主税局。同局も近年は能力が低下しており、適切でない法律を作ることが増えている。
しかし、国の威信に関わるからか、一度法律を作ってしまえば絶対に間違いを認めない。結果として、現実離れしているにもかかわらず、誤って作った法律を何とか実務に当てはめる必要が出てくる。今回のように、特例という形で実質的に紙保存を認める、といった小手先の対応を24年から取ることにしたのもそのためだ。少々特例の要件に合わなくても、税務当局が問題視することはまずないと思われる。
とはいえ、この特例の適用を受ける場合、税務調査そのものが従来よりもはるかに厳しくなると考えられる。大き…
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週刊エコノミスト
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