円安で国税が狙う為替差益の申告漏れ コロナ禍で海外資産情報の扱いに習熟 高鳥拓也
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国税は海外資産から生じた所得の申告漏れについて、重要度にレベルを設けて税務調査を実施している。
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海外資産の税務調査が今、急増している。最も増えているのが、国税庁の重点取り組み分野である「富裕層」「海外投資」「無申告」のすべてに該当する対象者への税務調査だ。そして、その切り札として効果を発揮しているのが、2018年から各国の税務当局とやりとりする「CRS(Common Reporting Standard=共通報告基準)情報」だ。
海外資産の開示制度には、年末時点で5000万円超の国外財産を持つ人の場合、税務署に国外財産調書を提出する義務がある。だが、直近の21年分の提出件数は1万1209件。近年は頭打ちで、12年の制度導入時に国税庁が想定していた提出件数に、まったく達していないと考えられる。国外財産調書の未提出や虚偽記載の場合、1年以下の懲役または50万円以下の罰金となるが、実際の適用は脱税など悪質なケースに限られ、多くの対象者は様子見なのが現状だ。
そのような中の切り札であるCRSとは、非居住者の金融口座の情報を他国の税務当局との間で自動的に交換する仕組みだ。口座保有者の個人情報(氏名、住所、マイナンバーなど)、収入情報(利子・配当などの年間受取総額)、残高情報(口座残高)などが対象になる。情報の提供元には、日本人富裕層の主要な海外資産運用拠点であるシンガポール、香港、スイスの他、英領バージン諸島(BVI)などタックスヘイブン(租税回避地)も含まれる。20年に台湾も加わった。
日本では18年から情報交換が始まり、22事務年度(22年7月~23年6月)は22年12月末の時点で、95カ国・地域から約257万件の日本居住者の海外口座の情報が国税庁に提供された(図1)。23年分もすでに交換されており、6年分の情報の蓄積によって、時系列での国外財産の残高推移も検証可能な水準となったといえるだろう。
開始当初こそ富裕層を中心に、申告漏れの国外財産額や国外所得額が大きい納税者を対象とした実地調査の参考資料としてCRS情報が用いられていた。加えて、22事務年度からは一般の個人課税部門でもCRS情報を端緒とした納税者への接触が急増している。
留学、駐在経験など調査
活用本格化の背景には、コロナ禍による税務調査の制限に伴い、調査官の稼働が情報元の収集・分析に充てられ、情報を活用する体制が整ってきたことがあるだろう。またCRS情報のデータベースがあれば、調査官個人の能力に依存せずとも効率よく課税できる。
具体的には、申告内容とCRS情報などを照らし合わせ、申告漏れの疑いがある個人を抽出し、さらに金額的・質的重要性に応じて3段階に分け、メリハリをつけた対応を行っていると考えられる。
「富裕層」「海外投資」「無申告」の重点取り組み分野に該当する、重要性「大」の個人に対しては、調査官が対象者の自宅などに臨場して税務調査が行われる。税務調査では対象者の▽学歴・職歴(留学や海外駐在の有無)▽親族の状況(海外居住親族の有無)▽財産形成の経緯(原資の出所、海外投資の契機、海外資産の管理状況)──などの事柄について、詳細にヒアリングされる。
また、CRS情報には海外口座の入出金情報が含まれていないため、通常、税務署は調査対象年分の海外口座の入出金記録などの国外財産情報の開示を要求する。対象者は、開示情報を基に海外所得の申告漏れの有無に加えて、贈与や受贈の事実、他口座や他財産の存在、仮装隠蔽(いんぺい)意図などを確認される。そのため調査終了までは時間を要する。
重要性が「中」となると、「連絡依頼票」の送付や電話連絡により、対象者を税務署に呼び出して調査をする。財産形成の経緯などは聞かれるものの、CRS情報などで把握された申告漏れの事実をピンポイントで指摘されるため、申告内容の是正に応じれば短期間で調査終了となることが多い。
そして、重要性「小」の対象者については、税務署は「国外送金等のお尋ね」や「国外財産調書の提出義務の確認」などの文書を…
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週刊エコノミスト
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