高成長続くパワー半導体市場でシェア細る日系メーカー 南川明
有料記事
家電やEVに不可欠なパワー半導体だが、日本勢はシェアを落としている。手遅れになる前に挽回策が必要だ。
>>特集「半導体 日本復活の号砲」はこちら
5G(第5世代移動通信システム)やAI(人工知能)、IoTなど、次々と登場するテクノロジーによって、我々の生活はより便利になっていっている。しかしながら、これらのテクノロジーの多くは電力消費の増加によって高機能化を果たしており、開発が進むほど大量の電力が必要となっている。電力供給で懸念されるのが二酸化炭素(CO₂)の排出量だ。現在、再生可能エネルギーを原力とした電気も存在するが、依然として化石燃料に多くを依存している。
このような背景で、現在注目されているのがパワー半導体だ。パワー半導体は、大きな電圧や電流を扱うことができる半導体で、エネルギー損失が少ないために、省エネの観点から注目されている。
脱炭素時代の「コメ」
パワー半導体とは、高い電圧、大きな電流の制御や変換ができる半導体のことを指す。通常の半導体は、電流や電圧を制御するために抵抗器によって変換が行われるが、パワー半導体はスイッチング動作によって柔軟に電力・電圧変換を行うため、電力損失が少なくて済むのだ。
パワー半導体の主な用途や役割は、各種電力のスイッチングによる直流電圧の変換、直流と交流間の電力変換、交流の周波数の変換などが挙げられる。これを活用すると、モーターを精度良く低速から高速まで回したり、太陽電池で発電した電気を効率的に送電網に送電したりすることが可能となる。代表例はエアコンなどのインバーターであり、インバーターを付けることにより消費電力は3~4割低減されている。
今、世界は深刻な電力不足に直面している。全世界の電力消費量のうち約55%はモーターを動かすために使われている。ちなみに照明は17%で2番目に大きな消費先である。
モーターは工場の操業や白物家電(冷蔵庫、洗濯機、エアコンなど)、電鉄、電気自動車(EV)などに使われ、使用量を減らすことは現実的に難しい。しかし、インバーターの搭載されていないモーターは工場ではまだ多く存在することから電力削減の余地は多い。
さらに、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)といった、現在の半導体素材の主流であるシリコンとは違う素材を使った「次世代パワー半導体」に代替すれば、原子力発電所数基分に相当する省エネができると試算されている。
さまざまな産業でのDX化(デジタル変革)、さらにはAIやIoT、電気自動車などの登場によって、世界における電力消費量はうなぎのぼりだ。さらに世界120カ国は2020年に、CO₂の排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を50年までに実現することを宣言したため、省電力化への動きは避けられない。ましてや近年の自然災害は地球温暖化が起因していることは間違いない。消費電力の削減によるCO₂排出量の削減は待ったなしである。
世界のパワー半導体市場は23年に前年比9.8%増の284億ドル(約4兆2000億円)と半導体不況期においても高成長を遂げた。短期的には白物家電や新エネルギー…
残り1533文字(全文2833文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める