中国、インドなど新興中銀が金を大量購入 制裁下のロシアは外貨準備の25%超に 鈴木直美
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世界の金鉱山による新規生産のうち、実に3割を中央銀行が買い占めている。中国などに加え、ポーランドやエジプト、カタールなどの国にも広がっている。
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「金利を生まない通貨」と見られている金の価格は、米ドルや米実質金利と逆相関する傾向が強い。例えば、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が始まった2020年3月以降、米連邦準備制度理事会(FRB)は緊急利下げを含む大規模な金融緩和に踏み切り、実質金利は急低下した。金スポット価格は20年8月、1トロイオンス=2075ドルの史上最高値(当時)を付けたのだ。
翌年になると、インフレの加速が世界的に不安視されるようになり、FRBによる利上げが視野に入り始めると、投資家は定石通りに金ETF(上場投資信託)の解約売りに動いた。22年に入り、FRBが実際に急ピッチな利上げを始める中、投資家による金先物売りも加わって金の新高値更新を阻んだ。しかし、23年にそうした売りを吸収し、金を高値圏にとどめたのは主に各国の中央銀行による金購入だった。
金融危機で売り手が一転
数字で確認しよう。ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)の「需給四季報」によると、FRBが利上げに着手した22年から23年9月までの7四半期、投資家はETFを通じて約300トンの金を売却した。この間、中国、トルコ、ポーランド、インドをはじめとする中銀の買いは1800トンを超える。10年代には、金需要全体に占める中銀による金購入の割合は十数%に過ぎなかったが、22年は4分の1近くに達した(図1)。世界の金鉱山による新規生産の3割を中銀が買い占めた形だ。
金市場での中銀の振る舞いは時代によって異なる。言い換えると、中銀の動向は世界情勢を反映する。中銀は1990年代から07年ごろまで金の売り手だったが、08年の世界金融危機を境に潮目が変わり、金の買い手に変わった。先進国(主に欧州)の中銀はかつて、金から金利収入の得られる主要通貨にシフトしたのに対し、近年は新興国が米ドルなどの通貨から金にシフトするという好対照が浮かび上がる。
08年に世界金融危機が起きると、米国をはじめとする主要先進国は低金利政策や量的緩和策を導入し、金利を生まないという金の弱点は薄れた。また大型経済対策で財政収支が悪化する国が続出し、10年代には欧州債務危機も発生して、先進国通貨や国債の信認低下が危惧された。
一方、経済成長やグローバル化に伴う貿易拡大で外貨準備を増やした中国やインドなどの新興国はドル中心の外貨準備の一部を金に振り向け、ドイツ、オランダ、ベネズエラ…
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週刊エコノミスト
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