中国越境ECからうかがえる“寝そべり族”のデフレ圧力 丸山健太
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若年層の雇用悪化が消費行動も変化させ、「寝そべり族」という言葉も生まれた。
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中国経済の減速が続いている。1月17日に公表された2023年の実質GDP(国内総生産)成長率は前年比5.2%にとどまった。もとより低めに設定された5%前後の政府目標は辛うじて達成されたが、新型コロナウイルス禍の影響で22年の成長率が3.0%と低かったため、数値が高く出やすかった。それでも、コロナ前の19年までの6%超と比べれば低い数値だ。
景気減速の主要因は不動産と個人消費の弱さにある。1998年に住宅の私有が認められた中国では、北京や上海など大都市を中心に住宅価格の高騰が社会問題となり、特にリーマン・ショック以降、不動産バブルへの懸念が高まった。このため、政府は16年に「住宅は住むためのもので投機の対象ではない」というスローガンを掲げた。
20年夏には、「総資産に対する負債比率70%以下」「自己資本に対する負債比率100%以下」「短期負債以上の現金保有」の三道紅線(三つのレッドライン)と呼ばれる不動産業向け規制を発令した。21年には、住宅ローンや不動産開発企業向け融資に総量規制を実施した。その結果、不動産業のGDPは、21年7~9月期に前年割れした後、23年1~3月期を除きほぼ一貫して足元までマイナス成長が続いている。
個人消費については、22年12月のゼロコロナ政策撤廃後のリベンジ消費に弱さがみられる。23年2月の小売売上高は前月比(年率換算)プラス28.2%と大幅に増加し、同年1~3月期の実質GDP成長率も前期比年率換算でプラス8.7%となった。しかし、そのリベンジ消費も春先には失速し、7月の小売売上高は同マイナス0.1%となった。実質GDP成長率も伸び悩んだ。
「寝そべり族」流行語に
失速の背景には、不動産市況の悪化によって保有資産が含み損となる逆資産効果のほか、多くの要因がある。そのうち特に重要な要素に、若年層を中心とした雇用情勢の悪化とそれに伴う消費マインドの低迷が挙げられる。
16~24歳の若年層失業率は23年4~6月、3カ月連続で20%超の過去最高水準を更新した後、7月分から公表が停止された。国家統計局は統計手法見直しのためと説明したが、悪化に歯止めが掛からない数値を公表したくない意向と見られる。12月分からは、調査対象から在学生分を除いた数値が公表されるようになった。
もっとも、失業率と並んで政府が重視する都市部新規雇用者数は19年を下回り続けており、雇用情勢の悪化は明白だ(図1)。消費者マインドを示す消費者信頼感指数は、上海で大規模なロックダウンが実施された22年4月に楽観と悲観の分岐点である100を大きく割り込んだ。ゼロコロナ政策撤廃に伴って23年3月には94.9まで回復したが、その後再度低下して、過去最低に近い水準で底ば…
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週刊エコノミスト
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