経済・企業

“牛肉”から“豚・鶏肉”へ 代替消費で生活防衛 中浜萌

2023年は食料品の消費者物価指数が前年比で8.5%も上がった(Bloomberg)
2023年は食料品の消費者物価指数が前年比で8.5%も上がった(Bloomberg)

 総務省の「消費者物価指数(CPI)」は2023年、総合指数が前年比3.2%上昇と22年(2.5%上昇)から伸びを拡大し、1991年(3.3%上昇)以来の高い伸び率となった。ただ、CPI総合指数のウエートは半分が財、半分がサービスで構成されているにもかかわらず、23年の物価上昇はほとんどが財価格による「偏った物価上昇」であり、家計はより安価な財を求める生活防衛的な行動を取っている。

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 CPIは家計が消費する財(モノ)やサービスを対象に582品目の価格を調査している。このうち、調査対象のすべての品目を基準年(現行は20年)時点の家計支出額に基づいて加重平均したものが「総合指数」であり、家計が直面する物価全般の価格動向を把握できる。現行基準では、財が50.5%、サービスが49.5%のウエートを占めている。

 23年のCPI総合指数の内訳をみると、財(除く電気・ガス・水道)が2.94ポイント上昇、サービスは0.85ポイント上昇と全体を押し上げた一方で、電気・ガス・水道は政府による補助金で値下がりし、0.54ポイント下落とマイナスに寄与した(図1)。この背景には、21年以降に原材料高や円安が顕著となり、主に財への価格転嫁が進んだことがある。

 財の内訳をみると、食料品は前年比8.5%上昇、耐久消費財は4.3%上昇、衣類などの繊維製品は3.9%上昇といずれも総合指数を上回る高い上昇率となった。このうち、特に食料品での価格転嫁が目立ち、肉類・魚介類は前年比10.6%上昇、菓子類は10.0%上昇、油脂・調味料は9.0%上昇と、これらの分類では23年の1年間で1割近くも価格が上昇した。

 生活する上で欠かせない食料品価格の上昇は、家計の消費行動にも影響を与えた。総務省の「家計調査」によると、23年の消費支出額はすべての食料品で前年から増加した。しかし、この間のCPIと比較すると、新型コロナウイルスの感染終息後の「リベンジ消費」で支出が拡大した外食を除けば、消費支出額はCPIの上昇率を下回っており、家計が生活防衛的な行動を取っていたことが分かる。

 一般的に、ある商品の価格が上昇した場合、収入が増えないもとでは、消費者はいくつかの行動を取ることで支出額を抑制しようとする。例えば、①価格が上昇した商品の購入数量を減らす、②同じ分類(野菜、果物など)の中でも、比較的安い類似の品目で代替する、③同じ品目でもプライベートブランド(PB)など低価格品を選ぶようになる──といった行動が挙げられる。

牛乳、チーズはPBへ

 こうした消費行動を分析するには、家計調査の「購入数量」と「購入単価」の変化を比較する方法がある。家計調査では実際の支出行動のデータに基づき、家計が購入した商品の数量や単価を調べており、購入単価が上昇した品目で購入数量が減少していれば、価格上昇を理由に購入数量を減らしたことになる。また、家計調査の購入単価とCPIの動向を比較すれば、低価格品・高価格品のどちらを選んだのかが分かる。

 物価上昇が加速した23年、家計調査を用いて食料品の購入単価と購入数量の関係をみると、両者には強い負の相関、つまり単価が上昇した商品で数量が減少する関係がみられた(図2)。具体的には、食料品122品目のうち110品目で単価が上昇、さらにこのうち95品目で購入数量が減少しており、家計は購入数量を減らすことで食料費の総支出額を抑制していたことが示唆される(ケース①)。

 一方、購入単価が上昇したにもかかわらず、数量も増加した品目がある。例えば、魚介類の「かつお」では、購入単価が前年比11.7%上昇する中で、購入数量も7.9%増加した。これとは反対に、「鯛(たい)・いか・さけ」では購入単価の上昇率を上回る数量減が見られた。つまり、同じ魚介類の中でも、比較的高価な「鯛…

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