“値上げしやすい”サービスと“値上げしにくい”サービスに二極化 供給抑制も招く現実 河田皓史
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サービス物価では家賃や理髪料などの品目で今なお、物価上昇幅はわずかにとどまり、広がりには乏しい。
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日本でもインフレが2年弱にわたって継続している。インフレ率が2%を上回った当初は、商品市況高と円安による輸入物価の急上昇を受けた「モノ(財)」の価格上昇がインフレの主因であり、消費者物価指数(CPI)のウエートの約半分を占める「サービス」の価格上昇は限定的だった。こうした状況を眺めて、政府・日銀も含めた多くのエコノミストは、「今回のインフレは一時的であり、持続性に乏しい」との見方を示していた。
一方、現在は「今回のインフレは本物で、持続性があるかもしれない」との見方に転じるエコノミストが増加している。こうした“心変わり”の理由としては、今年の春闘賃上げ率が2年連続で高水準になりそうなことに加え、インフレの主因が「モノ」から「サービス」にシフトしつつあること──が挙げられるだろう。
確かに、直近(2024年1月)のコアCPIの伸び率(前年同月比2.0%上昇)のうち、サービスの寄与度は約5割に上っており、「モノ」中心のインフレであった22年度とは大きく様変わりしている。輸入物価の動向に大きく左右される「モノ」の価格と異なり、「サービス」の価格は賃金など国内経済動向の影響を受けやすい。
この点、インフレの基調を占う上ではサービス物価の動向が重要という認識は広く共有されており、そのサービス物価が上昇してきた今、「ついに日本もインフレ時代に突入したのでは」との見方が出てくるのは、自然な流れといえるだろう。
ただし、現在のサービス物価上昇の内訳をつぶさにみると、一部の品目にけん引された“いびつ”なものとなっており、賃金上昇が物価上昇を促すというメカニズムが十分に作用しているとはいいがたい。この点について、データを詳しくみてみよう(図1)。直近のサービス価格の伸び率(2.2%上昇)を寄与度分解すると、①宿泊料、②外国パック旅行費、③携帯電話通信料、④外食──で約8割を占めており、それ以外の大部分の品目(ウエート構成比84%)の上昇は限定的にとどまっている。
動かない「岩盤」価格
現在のサービス物価上昇の主因となっている品目のうち、宿泊料については円安進行に訪日外国人数の急回復が重なったことなどにより、伸び率が一時的に跳ね上がっているとみるのが自然であり、数カ月すれば伸び率は大きく低下することが見込まれる。外国パック旅行費の急上昇は、統計作成上の技術的な要因によるものであり、1年後には確実に剥落する。また、携帯電話通信料の上昇は、21年度に前年度比50%程度の大幅下落となった反動が、ここにきて多少生じているに過ぎない。
外食の上昇についても、既往の輸入物価上昇が原材料コスト(食材価格など)を大きく押し上げたことが主因であり、原材料コストの上昇が一服する中で、すでに伸び率は縮小に転じている。つまり、23年後半のサービス物価の伸び率拡大の大部分は一時的な要因によるものであり、こうした一時的な要因が剥落していく今年半ばにかけて、サービス物価の伸び率は縮小する可能性が高い。
サービス物価上昇が“いびつ”であることは、「値上げしやすいサービス」と「値上げしにくいサービス」の二極化が生じていることを意味している。足元で「値上げしやすいサービス」の代表格はホテル料金である。CPI宿泊料やホテルの平均客室単価の動きをみる限り、円安にも後押しされたインバウンド需要の急増が、ホテルの価格設定スタンスを明確に強気化させていることは間違いないだろう。
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週刊エコノミスト
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