“対症療法”で不動産不況をしのぐ中国 潜在する債務増大リスク 岡嵜久実子
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中国政府は今のところ、コロナ禍や不動産不況対策で資金供給を優先し、債務削減を急ぐ様子は見せていない。
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深刻化した不動産不況
中国の輸出や製造業の設備投資などにやや持ち直しの気配が見えてきた。景況感を表す製造業購買担当者景気指数(PMI)は3月、6カ月ぶりに好不調の境目である50を超えた。しかし、不動産不況の影は依然として濃く、消費者マインドは冷え込んだ状況が続いている(図1)。
中国の不動産市場を巡っては、かねてバブルの膨張と過剰在庫の問題が懸念されていたが、コロナ禍と中国政府による不動産関連融資の規制強化が重なった2021年ごろから地合いが急速に悪化した。一部の不動産開発大手の資金繰り破綻をきっかけに、マンション建設の中断、新規購買意欲の減退、企業の売り上げ減少、資金繰りの一段の悪化といった悪循環が広がった。
住宅販売金額は22年、前年比3割の大幅減少となり、23年はさらに1割近く減少し、多くの不動産企業の財務基盤に打撃を与えている。この間、住宅着工面積はそれぞれ40%、21%と大幅に減少した。
共産党指導部と中央・地方政府はまず、「保交楼(建設中物件の完成・引き渡しを保証)」政策に力を入れた。狙いは、銀行ローンを組んでマンションを予約購入し、物件の引き渡しを受ける前からローンを返済する人々の不満をやわらげ、不良在庫を減らすことだ。
共産党中央政治局は22年7月、不動産市場を安定させることの重要性を確認し、政府は購入制限の緩和や金融支援策を若干強めに打ち出すようになった。今年1月には地方政府の住宅建設当局と金融当局が協力して金融支援が可能な開発プロジェクトをリストアップし、金融機関に協力を求める「都市不動産協調融資メカニズム」の導入が決まり、融資が動き出している。
調整の長期化と影響
ただし、政府の施策は対症療法的なものが中心であり、基本的には地方政府がそれぞれの責任で現地事情に合う対応策を実行することになっている。中央政府はこれまでのところ、支援を抑えているように見える。このため、再建のめどが立ちにくい不動産企業の清算や、不良在庫の調整が大きく進展する見通しは立っていない。
不動産市場が混乱すると、住宅購入契約者や既存の保有者は将来の値上がり期待をしぼませるか、ローン返済負担の重さを感じることになる。それが消費行動の抑制につながっている可能性が高い。
また、新たな不動産開発が減ったことで、地方政府にとっては土地使用権の譲渡収入が大幅に減少し、地方のインフラ建設投資などが滞る原因になっている。以前から、地方政府が土地使用権の譲渡収入に頼りすぎていることが、不要な不動産開発を誘発しているという批判があった。そこで、15年以降は地方政府が責任を負うべきインフラ建設投資について、地方政府が自ら債券を発行して資金を調達することが奨励されるようになっていた。
しかし、債券を発行すれば、将来の利払いと返済義務が生じるため、地方政府は発行に消極的だといわれることもある。23年は土地使用権の譲渡収入の減少を債券発行で補ったように見える(図…
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週刊エコノミスト
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