44年前の絵本『あさいち』1万部超を復刊 能登の復興を願う 編集部
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元日に能登半島を襲った大地震。建物の倒壊と火災は凄惨(せいさん)を極める事態となった。そして日本3大朝市のひとつ・石川県輪島市の朝市も240棟が焼失してしまう。
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大きな被害を出した自然災害に対し、1冊の絵本が40年以上の歳月を越えて復刊され話題になった。その名もずばり、『あさいち』(え=大石可久也、かたり=輪島・朝市の人びと、福音館書店、1100円)である。福音館書店営業推進部宣伝課の岡﨑健浩さんが語る。
「あの大きな震災のあと、社内でも“なにかできないか”という空気になっていました。というのも、弊社の創業の地は同じ石川県の金沢市なんです。そんなご縁で模索しているうちに1980年に雑誌『かがくのとも』の1冊として出て、その後、ハードカバーにして書籍化された『あさいち』をもう一度読めないだろうか、というリクエストを複数いただくようになりました」
絵本は記憶装置
『あさいち』は、輪島の海や畑で取れた新鮮な品物が町まで運び込まれ、さまざまな店舗が市場の通りにズラリ並んで、それぞれの店の人同士、あるいは客との会話風景を生き生きと描いた絵本である。無残な状況になってしまった輪島朝市の現状を目の当たりにした人びとのなかに、かつての輝かしい朝市を描いたこの本を想起した人が少なからずいたのだ。
「40年以上前に出てしばらく流通していなかった本を、複数の方々がすぐさま思い出し、リクエストしてくださったことは新鮮な驚きでした。そこで弊社としてもなるべく早く出そうということで地震からおよそ2カ月後の3月6日に復刊し、売り上げの一部を能登半島地震の義援金として日本赤十字社に寄付することに決めました」
岡﨑さん自身も、当時を知る先輩にヒアリングを試みる。
「当時の担当編集者によると、まず、子どもたちに“商品の向こう側に労働があること”を理解してほしいという意図があったようです。お金がやりとりされる裏側には必ず労働というものがあり、それを絵本にしていちばんわかりやすく伝えられる現場は市場ではないかと。そして予備取材に赴いた際、すでに輪島の朝市を描いていた大石可久也さんの存在…
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週刊エコノミスト
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