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法務・税務 相続税

相続財産の時価評価めぐり地裁で国税敗訴 相続人に不利な方法を認める「総則6項」の是非問う 遠藤純一

相続税の申告で総則6項の適用事例が増えている………(国税庁)………
相続税の申告で総則6項の適用事例が増えている………(国税庁)………

 相続税の申告の際、国税庁の通達通りに財産を評価しても税務署に認められないことがある。しかし、そうした運用に一石を投じる判決が今年1月に東京地裁であった。

総則6項の適用事例が増える可能性も

 相続税の申告時に相続した株式や不動産などの財産は通常、国税庁の定める評価方法(財産評価基本通達)通りに評価する。ところが、直後に行われた売買の価額などに比べて通達通りの評価額が低すぎると、「著しく不適当」として税務署から例外的な評価方法により高い金額で再評価され、追徴課税までされることがある。こうした相続財産の評価について、東京地裁は今年1月、相続株式について例外的な評価方法を認めず、納税者側が全面勝訴する判決を言い渡したことで、今後の税務署側の出方に注目が集まっている。

 相続税法では不動産や株式などの相続財産を「時価」で評価するとしているが(22条)、相続財産は容易に時価評価できるものばかりでなく、また何をもって「時価」とするかで争いが生じやすい。そこで、国税庁は評価通達として不動産や株式などさまざまな財産の評価方法を定めている。ところが、評価通達の評価方法にのっとって相続税を申告しても、国税庁が「この通達の定めによって評価することが著しく不適当」と判断した場合、評価通達の総則6項に基づき異なる評価方法で財産を再評価することを認めている。

 東京地裁で争われた訴訟では、東北地方地盤の薬局チェーンのオーナー(被相続人)が2014年6月に死去したことに伴い、非公開の薬局チェーン株式を相続した子2人が原告となった。子2人はこの株式について、評価通達に基づき総額約1億7500万円(1株当たり約8200円)と評価して15年2月に相続税を申告。相続税額はそれぞれ約8000万円だった。これに対し、税務署側は総則6項を適用したうえで株式を約10倍の約8万円と評価し、相続税額をそれぞれ約2億6800万円、過少申告加算税約2400万円を課した。

申告前に高額で譲渡

 税務署側が総則6項を適用して株式を評価し直したのは、申告前の14年7月、相続した株式が1株当たり約10万5000円で他社に譲渡されており、相続税評価額との間に「著しい乖離(かいり)」が生じたことなどで、「実質的な租税負担の公平に反するというべき特段の事情がある」としたためだった。子2人はこうした税務署側の更正処分(申告された税額に誤りがあるとして訂正すること)を不服として、国税不服審判所に審査請求するなどしたが認められず、東京地裁に21年1月、更正処分などの取り消しを求めて提訴した。

 東京地裁は審理に当たり、同じく総則6項の適用の是非が争われた22年4月の最高裁判決の内容を検討した。そこで、この最高裁判決を簡単に振り返る。高齢の被相続人が亡くなる直前に多額の借入金によって賃貸不動産を買い、その相続人が評価通達通りに相続財産を評価した…

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