糖尿病新薬の体重減少効果でダイエット目的処方が過熱 村上和巳
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糖尿病治療薬が爆発的な売り上げをたたき出す一方、自由診療での適応外処方が後を絶たない。本来必要とする患者に届かないばかりか、低血糖発作などを引き起こすリスクもある。
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セマグルチドという成分を使った「GLP-1(グルカゴン様ペプチド─1)製剤」は、2型糖尿病治療薬として世に出た。だが、これまでにない体重減少効果の方に注目が集まり、全世界の売上高はうなぎ登りだ。同じ成分でも適応症、投与量、剤形が違うと製品名も異なる。セマグルチドから生み出された治療薬は現在、2型糖尿病の注射薬「オゼンピック」と経口薬「リベルサス」、肥満症の注射薬「ウゴービ」の3種類がある。
製薬業界では全世界売上高10億ドル以上の製品を「ブロックバスター」と呼ぶ。2017年に米国で初めて発売されたオゼンピック(日本では20年に発売)は、約1年でこのラインを突破。23年の全世界売上高は、医療用医薬品では世界4位の138億ドル(約2兆1100億円)まで急伸した。患者数の多い糖尿病治療薬は大型商品化しやすいが、これほどの売上高をたたき出した例は過去にない。
しかし、この売上高すべてが糖尿病患者への処方と考える関係者はほぼ皆無である。体重減少効果に着目した単なるダイエット・美容目的の適応外処方が相当含まれているとの見方が大勢だ。この過熱ぶりは、世界的なGLP-1製剤の供給不足を引き起こした。
日本でもオゼンピック発売直後から適応外処方を行う自由診療クリニックによる「メディカルダイエット」と称した宣伝サイトが乱立。オゼンピックを含む複数の週1回の自己注射で済むGLP-1製剤が自由診療で重宝され、急速に需要が拡大したため、23年夏までにすべてが限定出荷に陥った。自由診療の薬剤価格は公定薬価(保険適用の糖尿病患者は最大3割が自己負担)の2~3倍だが(表)、それでもダイエット目的で入手を求める人は多いのだ。
23年7月には厚生労働省が各都道府県衛生部局宛てに、医療機関へのGLP-1製剤の適正使用の呼びかけを要請する事務連絡を出した。加えてGLP-1製剤の製造・販売元が医師に本来治療に…
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週刊エコノミスト
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