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公立中高一貫校の現在 難関大合格者数を増やす学校から募集停止校まで 堀和世

落ち着いたたたずまいの南多摩中教は1908(明治41)年開校の東京府立第四高等女学校を前身とする(筆者撮影)
落ち着いたたたずまいの南多摩中教は1908(明治41)年開校の東京府立第四高等女学校を前身とする(筆者撮影)

 学費が安い公立の中高一貫校が増えている。難関大学に合格する実績を上げる学校がある一方、募集停止の例もある。

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 2024年度大学入試(24年度入学)で、東京大学の合格者が最も多かった公立中高一貫校は21人の県立千葉高校だった(表)。合格者数は私立、国立のトップ校に及ばなくても、現役合格者の割合が高い公立中高一貫校が多いことが分かる。

 東京都立南多摩中等教育学校(中教)は今春、東大合格者が前年の2人(うち現役1人)から11人(同9人)に伸びた。公立高校トップの都立日比谷高校(60人合格、うち現役52人)には水をあけられているが、卒業生数を分母とした東大現役合格率を見ると日比谷の約16%に対し、南多摩中教は約6%と差が縮まる。宮嶋淳一校長は「9割以上が現役で大学に進学する。それは普段の授業を大切にしていないと不可能だ。地理と理科を融合させた『地球探究』の科目や数学を英語で教えるなど、文理融合的な授業が特色」と話す。

 学費が安い上に東大など難関国立大を目指せるなら、公立中高一貫校は保護者の選択肢に当然入る。しかし、大学通信がまとめた24年度中学入試の結果によると、首都圏の公立一貫校は前年から軒並み志願者を減らした。大学通信情報調査・編集部の大野香代子シニアエディターは「中学受験で公立を受検しても、準備をしっかりしないと受からないことが浸透してきた。また、コロナ対策で私立中がいち早くオンライン授業の態勢を整えたのに対し、公立は一貫校も含めて動きが鈍かったことが保護者の不安を招いた面がある」と解説する。

 公立一貫校の入試は長文を読んで作文を書いたり、教科横断型の出題がされる「適性検査」という独特の形式。経済的余裕に乏しい家庭が公立一貫校一本で臨む場合でも塾通いは必須だ。一方で競争率は約4倍と高い。結局、中学受験を諦めて地元の公立中に進むというケースは多い。

全国最多は茨城

 半面、1999年度に中高一貫教育が可能となって以来、公立一貫校は増加している。23年度の文部科学省学校基本調査によると一つの学校として6年間の教育を行う中等教育学校と、付属中から無試験で高校に進学できる「併設型」中高一貫校を合わせ、全国に140校ある。公立一貫校がないのは富山、岐阜、愛知、三重、鳥取、島根の6県のみだ。茨城では20~22年度にトップ校の水戸第一高校、土浦第一高校も含めた10校が一貫校化。計13校で全国最多に躍り出た。25~26年度には愛知で県立高9校が併設型に転換する。

 背景には公立校の地盤沈下を食い止めたい自治体の事情もある。茨城は東京や千葉へのアクセスが良い分、成績上位層が県外に進学してしまう傾向があった。愛知では県立高の定員割れが深刻化し、20年度に始まった私立高の授業料実質無償化が拍車をかけていた。

 ただし、一貫校化は必ずしも成功を約束しない。新潟県教…

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