国際・政治 インド総選挙
モディ首相「苦い勝利」の3期目は初の連立政権 山田剛
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約60年ぶりとなる3期目に突入したモディ政権。だが、今後の5年間は険しい道のりとなりそうだ。
民営化など庶民の痛みを伴う改革は失速か
モディ首相率いる与党インド人民党(BJP)が3期目に挑んだインド総選挙が6月4日、一斉に開票された。同党率いる与党連合・国民民主同盟(NDA)は下院543議席中293議席を獲得し、続投を決めた。同一政権の3期目入りは約60年ぶり。
「370議席を目指す」と豪語していたBJPだったが、前回2019年総選挙の303議席を大きく下回る240議席にとどまり、連立友党なしでは国会下院で過半数を維持できなくなった。
野党連合が主に農村部や小規模都市などで健闘
一方、老舗政党・国民会議派(コングレス)率いる野党連合・インド国家開発包括同盟(INDIA)は前回から100議席以上を上積みした232議席と躍進し、与党を脅かす勢力となった。モディ政権の反イスラム的な政策や強権的な姿勢への反発もさることながら、失業やインフレ、農民所得の伸び悩みなどに対する有権者の不満が顕在化した格好だ。与党の議席減と連立政治の復活で、民営化や労働・土地政策など、庶民の痛みを伴う改革はペースダウンしそうだ。
野党連合「INDIA」が本格始動したのは選挙まで1年を切った昨年6月。選挙協力を巡る足並みがそろわないまま投票日を迎えた。しかし、人口約2億4000万人の巨大州・ウッタルプラデシュ(UP)州や、商都ムンバイを擁する西部マハラシュトラ州などでは国民会議派と地元政党との候補者調整など選挙協力が効果を発揮し、各地で与党から議席を奪取した。疲弊する農民の不満を背景に、主に農村部や小規模都市などで野党の躍進が目立った。
最大野党ながら長く低迷していた国民会議派は前回の2倍近い99議席を獲得し、息を吹き返した。会議派と組んだ北部UP州の地域政党・社会主義党(SP)は同32議席増の37議席という大躍進。INDIAメンバーだが会議派との選挙協力を見送った西ベンガル州の政権党・全インド草の根会議派(TMC)も議席を伸ばすなど、友党は軒並み健闘した。
一方、与党連合NDAも、首都デリーはじめモディ首相の地元・西部グジャラート州や中部マディヤプラデシュ州などの牙城を死守した。しかし、聖地アヨーディヤなどに政府主導で巨大ヒンズー寺院を建設し、多数派ヒンズー教徒にアピールしていたUP州では、野党連合にまさかの「逆転」を許した。
前回ラフル・ガンジー国民会議派総裁(当時)への「刺客」候補として当選した有力女性閣僚のスムリティ・イラニ女性・児童開発相が落選。バラナシ選挙区で当選したモディ首相自身も、2位との得票差は前回の約48万票から15万票余に減少した。
反発した農民、貧困層
有力シンクタンク・発展途上社会研究センター(CSDS)の調査では、カースト最下層のダリット(不可触民)や農民などに多いOBC(その他後進カースト)から多くの票が野党側に流れたことが与党苦戦の背景とみている。
インド外務省関係者は「(前回BJPが敗れた)2004年総選挙の再現だ」と話す。当時のバジパイ政権は「輝くインド」のキャッチフレーズを掲げて経済成長の成果を誇ったが、これが発展から取り残された農民や貧困層の反発を招いた、といわれている。
今回も、経済成長をアピールし人々の信仰心に訴えれば勝てると思っていたとすれば、BJPはまたもインドの有権者を甘く見ていたということになる。
一部テレビ局が「与党連合は最大で401議席獲得」と報じるなどメディアの出口調査と実際の開票結果に大きな隔たりがあったことも臆測を呼んだ。
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週刊エコノミスト
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