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少子化に直結する未婚率の上昇 松浦司

 未婚率の上昇には、経済成長率、地域の男女比率、雇用の安定などが影響しているが、まずは、将来に希望が持てる経済環境が必要だ。

福井、岐阜、島根に結婚しやすい環境

 2023年の合計特殊出生率が1.2となり、出生数も72.7万人と過去最低を更新した。合計特殊出生率は有配偶率と有配偶出生率に分解することができるが、有配偶率の低下には「未婚率の上昇」が大きく影響しているといわれている。そこで、未婚率を決定する要因について先行研究や、データを通じてみていく。

 50歳時点未婚率の推移をみると、1970年と80年では女性の方が男性よりも若干高いものの、いずれも5%未満と低い水準であった。90年では男性の方が高くなり、90年代には男性の未婚率が急激に上昇した。2000年代には女性の未婚率が急激に上昇して、20年には男性で28%、女性で18%となり、生涯未婚も珍しい現象ではなくなった。

 未婚化の要因について、明治大学の加藤彰彦氏は男性の未婚化の主要因は経済成長の低下にともなう階層格差であり、相対的に低階層の男性から未婚化が進んだとする。ここでは経済水準ではなく、経済成長率の低下としている点に注目したい。女性の未婚化の要因は女性たち自身の結婚観の変化であり、結婚が望ましいとする従来の価値観が弱まったとする。

将来の収入増期待にカギ

 この分析に対して、三つ補足をしたい。第一に、加藤氏の研究でも指摘されるように、経済の絶対水準の高さではなく経済成長率が問題である。経済水準自体は現在と比べると、高度成長期のほうが低い。しかしながら、現在は貧しくても将来は豊かになることを多くの人は期待することで安心して結婚したので、未婚率が低かった。筆者も高度成長期の結婚の決定要因を分析したことがあったが、健康状態が悪いことと未婚状態に強い相関が確認されたが、所得との相関は確認されなかった。高度成長期は健康であれば、現在の所得が低くても、将来収入の上昇が期待できたためである。

 第二に、男女で理由が異なる点である。男性より女性が学歴や収入が高いカップルは珍しい状況の下で、男性の低階層化は男性の未婚率を上昇させる原因である。女性が自分よりも学歴や所得が低い男性を好まない、いわゆる女性の「下方婚の忌避感」も指摘される。ただし、国立社会保障・人口問題研究所の福田節也氏は、近年では学歴下方婚を忌避する傾向が弱まっていることを指摘している。

 第三に、合計特殊出生率と同様に、50歳時未婚率にも地域差が観察されて、男性にはその傾向が顕著である。図1は20年の都道府県別の未婚率を示した結果である。男性は東京都の32・15%を筆頭に、東北地方や北関東地方を中心とした東日本で未婚率が高く、西日本では高知県や沖縄県は例外であるが、相対的に未婚率が低い。一方、女性は東京都の23・79%を筆頭に、高知県、大阪府、北海道、京都府と続くが、地域的な傾向は弱い。逆に未婚率が低い県は男女ともに滋賀県や福井県となっている。

 また、立正大学の北村行伸氏と九州大学の宮崎毅氏の論文では、都市化の程度や男女比は結婚経験率に影響し、男性就業率は男性の結婚に正に影響するが、都市化や就業状態では説明できない地域要因も大きいとする。

 そこで、先行研究や地域データで得られた結果を踏まえて、人口性比(女性100人に対する男性の数)と労働条件に注目したい。20年の20~24歳の都道府県別の女性100人に対する男性の割合をみると、全国平均103・6に対して、福島県115、山形県113、秋田県112、青森県と岩手県が110と、本連載の3月26日号で指摘した…

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