経済・企業 書評

書店復興は地域の読書事情の実態把握から 永江朗

 出版文化産業振興財団(JPIC)の調査によると、今年3月時点で書店ゼロの自治体は全国で27.7%に上るという。前回、2022年9月時点の調査では26.2%だったから、1年半で1.5ポイント無書店自治体が増えたことになる。

 もっとも、JPICのこの数字は大手取次(出版販売会社)と取引している書店に限られる。出版社と直接取引している独立系書店や古書店、ブックカフェなどは含まれないし、昨今話題になることが多い多数の人に棚を貸し出すシェア型書店も含まれていない。

 未来読書研究所共同代表の田口幹人氏は書店業界紙『新文化』のコラムで、同研究所が把握している書店を加えて試算したうえで、書店がない自治体は17%だと指摘している。27.7%と17%ではずいぶん違う。

 この差は既存の出版業界とその枠から飛び出して新たに書店を始めた人びととの意識の差ではないか。思想家・武道家の内田樹氏は、エッセー集『だからあれほど言ったのに』で、〈「一人書店」「一人出版社」が今、日本各地で活動している〉と書き、高知県の山の中の「うずまき舎」(ただし、エッセーに店名は出てこない。高知県香美市)と鳥取県東伯郡の「汽水空港」、そして奈良県吉野郡の私設図書館「ルチャ・リブロ」を紹介している。エッセーのタイトルは「採算度外視で書物を守る人たち」だ。

 昨年4月、鳥取市の「定有堂書店」が閉店した。全国から書店員や本好き、そして書店開業を考える人が訪れる「本屋の聖地」とまでいわれた書店だった。その定有堂書店跡に今年5月、古書店「シープシープブックス」が誕生した。店主は地元出身で地元の書店チェーン・今井書店でエリアマネジャーを務めた人。このシープシープブックスも古書店だからJPICの数字にはカウントされないだろう。

 大手取次の視点だけでは、本と読書の実態は見えてこない。経済産業省が書店復興プロジェクトチームを立ち上げたのをきっかけに、書店に補助金を、反アマゾン法をという声も聞こえてくるが、必要なのは読者/消費者が何を望んでいるかを知ることではないか。


 この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。


週刊エコノミスト2024年6月11・18日合併号掲載

永江朗の出版業界事情 危機とされる書店、まずは正確な実態把握を

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