国際・政治 ウクライナ戦況

長期消耗戦に入ったロシア・ウクライナ全面戦争 山添博史

戦争は泥沼の消耗戦に入っている。写真は訓練するウクライナ軍兵士(2024年1月29日、Bloomberg)
戦争は泥沼の消耗戦に入っている。写真は訓練するウクライナ軍兵士(2024年1月29日、Bloomberg)

 泥沼の様相。双方に相手を圧倒できる力はまだまだ見えてこない。

死傷者50万人を超える

 2022年2月からのロシア・ウクライナ全面戦争は、多大な犠牲と資源消費を伴う長期消耗戦に入っている。ここでは少し経緯をたどりながら、投入資源や損耗の規模を見ていきたい。

 ウクライナは22年初めの段階で、20万人の兵力を持ち、ロシアの侵攻開始後は、動員や志願募集によって70万人の兵力を得た。ロシアは19万人の兵力で侵攻を開始した当初、ウクライナの虚を突くことができた場所では、占領地を大きく拡大し、ロシア軍は22年7月までに、ドネツク州南部やルハンスク州北部で、大規模な都市破壊を伴って前進した。しかし、ロシアは、本格的な正規戦闘を長期間続ける体制を採っておらず、ウクライナ軍の反撃により、兵員、指揮官や装備品を大きく損耗した。

機動戦から陣地戦へ

 ウクライナ軍は22年11月までに、ハルキウ州東部、ヘルソン州北西部の主要都市群を奪回した。このときの前線が18カ月後の現在まで、基本的には大きく動いていない。ロシアは22年9月に30万人規模の予備役動員を行い、防衛線の保持と戦力の再構築を開始した。一方のウクライナ軍は、西側諸国の支援を含めた戦力構築を進め、23年6月にザポリージャ州を南下する本格的な反攻を開始し、8月までには同地域のロシア軍側防御拠点に突入した。この頃までのウクライナ・ロシア両軍の死傷者については、ウクライナ軍約19万人、ロシア軍約30万人との見積もりがあった(表1)。

 この頃には、ウクライナ軍・ロシア軍双方とも、機動戦で敵戦力を破って前線を大きく動かすことは困難になり、地道に敵戦力を消耗させて、小規模でも前進を図る陣地戦に転じた。そのためには、大砲を大量に撃ち続けて、優位に立つことが重要となった。ウクライナ軍は23年夏に、ロシア軍の大砲陣地や補給路を攻撃することで、砲撃量でも優勢に立っていたが、24年初めには、ロシア軍が軍需生産能力向上を受けて、砲撃量の面でウクライナ軍を逆転した(表2)。

 西側などからの砲弾補給の見込みが乏しくなったウクライナ軍は、砲弾消費量を抑制せざるを得なくな…

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週刊エコノミスト

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