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“金利ある世界”が広げる銀行の収益力格差 杉山敏啓

収益力に格差が生じつつある(bee/PIXTA)
収益力に格差が生じつつある(bee/PIXTA)

 3メガバンクグループの2024年3月期連結決算は、純利益の合計が3.1兆円を超える最高益となり、3社とも大幅増配を発表した。他方、あおぞら銀行や農林中央金庫は海外投資の損失で業績が悪化し、資本増強策の検討に追い込まれた。地域銀行は7割弱が増益、3割強は減益・赤字だった。大幅赤字に陥ったきらやか銀行を傘下に持つじもとホールディングスは、公的資金として注入されている優先株への配当ができなくなり、国に議決権が生じて事実上の国有化状態になる。主要ネット専業銀行6行はすべて増益だった。

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 金利上昇局面を迎えた今回の銀行決算で、金融機関によって明暗が分かれた大きな理由は、金利上昇が銀行収益に及ぼす影響にはプラス面とマイナス面の両方があるからだ。一般的な傾向をいえば、金利が上昇すれば資金利益が改善して損益計算書(PL)にはプラス影響だが、有価証券評価損が拡大して貸借対照表(BS)にはマイナス影響になる。評価損に陥った有価証券を処理するために売却すれば、実現損が出てPLにマイナスに働く。また、円金利と海外金利とでは、金利上昇が銀行収益に影響する程度やタイミングが異なる。

 日銀は今年3月、16年に導入したマイナス金利政策を解除し、米国など高止まりする海外金利に続いて円金利も上昇している。今回の金利上昇局面では、円金利よりも先に海外金利が上昇したことで、国際業務の比重が高い大手銀行の収益が先に改善した。地域銀行でも外債運用は行われているが、外貨の調達は市場性資金が主体である。このため、海外金利が急上昇する状況では、固定金利中心の運用サイドよりも先に満期が短い調達サイドの利回りが上昇し、利ざやが縮小して金利上昇局面の恩恵を受けにくくなる。

「資金利益」要因で分析

 銀行の業務は多様化し、手数料収益のウエートがかつてに比べて高まったものの、金利の影響を受ける預貸取引や有価証券運用による資金利益は、依然として銀行収益の大黒柱である。今後、円金利がさらに上昇すれば、銀行の国内業務収益へのプラス影響が強まるとみられる。ただ、地銀は大手銀よりも業務粗利益に占める資金利益の比重が高く、金利上昇の追い風で好影響が強く出そうなものだが、規模と収益の変遷をみる限り、収益が堅調とは言いにくい。

 金利上昇は個別銀行の資金利益にどのような影響を与えたのか。銀行の資金利益は、貸出金や有価証券などの残高と利ざやで決まるため、資金利益の変化額への寄与度を残高要因と利ざや要因に分解し、大手銀、地銀、ネット銀112行を対象に分析する。22年度からは日銀が長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)を段階的に柔軟化し、円長期金利が徐々に上昇したため、それ以前の2年間(20-21年度)と、それ以降の2年間(22-23年度)の資金利益合計を比較し、資金利益の変化率に対する残高要因と利ざや要因の寄与度をプロットした(図1、拡大はこちら)。

 残高要因の寄与度と利ざや要因の寄与度の合計が資金利益の変化率になる。図中に引いたマイナス45度ラインは、資金利益の増加・減少を分けるラインで、資金利益の増加行はラインの右上方、資金利益の減少行はラインの左下方にプロットされる。ラインから遠く離れるほどに資金利益が大きく動いたことを意味する。第Ⅰ象限は、残高要因も利ざや要因もプラス寄与という、資金利益の増加として理想的な姿である。大手銀では三菱UFJ、三井住友、地銀ではきらぼし、大分、徳島大正、七十七など28行が位置する。

 残高要因はマイナス寄与だったが、利ざや要因のプラス寄与で資金利益を伸ばした第Ⅱ象限のライン上方には、東京スター、北日本など地銀7行が位置する。外債や投資信託などの投資銘柄の入れ替えによる有価証券利回りの改善や、利回りが高い貸し出しへの注力といった戦略が功を奏したとみら…

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