日米欧が支援するインド産半導体 実現を阻む三つの壁 熊谷章太郎
有料記事
インド政府は貿易赤字解消へ、半導体の国産化に手厚い補助策を講じるが、難問も山積する。
>>特集「沸騰!インド・東南アジア」はこちら
半導体の国際的なサプライチェーン再編が加速するなか、米国は供給元の多様化に向けて、価値観を共有する先進国のほか、新興国にも生産拠点を分散させようとしている。アジア新興国はこうした追い風に乗って自国の製造業を高度化させようとしており、世界経済・政治で着実にプレゼンスを高めるインドも、半導体を含めたエレクトロニクス産業のグローバルハブに自国を成長させることを目指している。
インドが半導体の国産化を重視する背景には、エレクトロニクス製品の輸入増加に伴う貿易赤字の拡大がある。インドでは2010年代に中国製の格安スマートフォンの普及を受けて対中輸入が急増した。その後、インド産スマートフォンの生産量増加に応じて補助金を給付する「PLIスキーム」(生産連動型優遇スキーム)や携帯電話部品の輸入関税を段階的に引き上げる「PMP」(段階的製造プログラム)の導入をきっかけに、スマートフォンを輸入から国産に切り替える動きが進んだが、国産が拡大したのは主に最終組み立ての工程で、半導体を中心に付加価値の高い部品は輸入に依存する状況が続いている。貿易赤字の縮小や中国依存度の低下を通じて、インド経済の安定性を高めるためには、半導体の国産化が極めて重要との判断である。
「インド半導体ミッション」
インド政府の半導体国産化に向けた取り組みは多岐にわたるが、特に注目を集めたのは、21年12月に発表された予算総額7600億ルピー(約1兆1400億円)の半導体国産振興策「ISM(インド半導体ミッション)」だ。同振興策には、半導体やディスプレー工場の建設に対する最大50%の財政援助や、半導体設計会社に対する売上高の4~6%相当の奨励金など、手厚い補助金政策が含まれる。
また、グジャラート州、タミルナド州、カルナタカ州など、半導体企業の誘致を目指す州も、中央政府の政策を補完する独自の補助金政策を打ち出している。22年、モディ首相がかつて州首相を務めたグジャラート州は、工場用地取得に対する助成や、電力や水の利用に対する優遇措置を含む「半導体政策2022~27」を発表し、半導体産業に特化した「ドレラ特別投資地域」の開発を進めている。
さらに、インド政府が半導体産業の投資誘致に向けたパートナーシップを先進国と相次いで締結したことも、グローバル企業がインド投資への関心を高めるきっかけとなった。23年3月、インドは米国と「半導体サプライチェーンとイノベーションパートナーシップ」と題する覚書を締結し、同年6月にモディ首相が米国を訪問した際に、半導体を含むさまざまな分野で協力することを確認し、米印関係が新段階に入ったことを多くの人に印象付けた。米印の接近を受けて、日本や欧州連合(EU)も半…
残り1598文字(全文2798文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める