経済・企業 2024年株主総会

本格化する企業の個人株主獲得 総会のデジタル化にイベント化 山下恵

シンプレクス・ホールディングスの株主懇親会では、金子英樹社長(写真後方)による即席の「進路相談会」も開かれた 筆者提供
シンプレクス・ホールディングスの株主懇親会では、金子英樹社長(写真後方)による即席の「進路相談会」も開かれた 筆者提供

 安定株主作りへ上場企業が個人株主に狙いを定め始めた。今年の株主総会の動きを追った。

親子招待で「ファン株主」作りも

 6月下旬にピークを迎えた2024年株主総会で、「個人株主の獲得」が大きなテーマとなった。東京証券取引所から資本効率の向上を求められる中、上場企業は政策保有株の削減を進めているが、その受け皿として、「安定株主としての個人」に期待が高まっているためだ。各社とも最低投資単位の引き下げのため株式分割を実施するほか、株主総会の運営でも創意工夫を凝らし始めた。

「個人獲得」の観点から今年、最も注目されたのは、NTTの総会だ。23年6月30日時点を基準日に、1株に25株を割り当てる株式分割を実施。総会に参加するための単位株を買うのに必要な金額は、約40万円から1万円台にまで下がった。その結果、個人株主数は分割前と比べ倍増の184万人と、1980年代のバブル期に上場した時の株主数に肉薄した。

 島田明社長は、昨年5月の決算会見で、「当社の株主はかなり年齢層が高く、個人の8割が60歳代だ。若い人にも投資してもらうためには単価を下げていく必要がある」としていた。筆者は、今年6月20日に東京・品川のグランドプリンスホテル新高輪で開かれた株主総会に参加したが、狙い通りの変化を確認することができた。

 来場株主は前年比2.5倍の1277人。女性の株主比率は約3割で、30~40代の若年層も増えている印象だ。

オンラインで1万人視聴

 お土産を配布していた新型コロナウイルス感染拡大前の総会では約7000人が参加しており、1300人弱は少ないのでは、との見方もある。しかし、コロナを契機に会社法改正などを通じて進展した総会のデジタル化は、個人参加のハードルを着実に低くしている。NTT総会のオンライン視聴者数は前年比3倍で、会場参加者を7倍以上上回る9246人と、大きく伸びている。

 島田社長は、「若年層株主の増加を目指して、総会の休日開催を検討しないのか」という株主からの質問に対し、「(昨年の)株主総会動画をネットに掲載し続けたところ、数千回の視聴回数があった。(若者に伝える)さらなる多様な手段を考えていきたい」と述べた。グループ会社や取締役の数が多く、休日開催へ調整が難しい中、自社のテクノロジーで株主とのコミュニケーションを強化していくということなのだろう。

 コロナが収束した今、形式的な総会では個人をひきつけられないと、総会を「イベント」にしていく動きも復活している。

 居酒屋チェーン大手のワタミは、大規模な株主総会を5年ぶりに再開した。業績が回復する中、創業40周年ということもあって、週末の23日の日曜日に、横浜市の国際展示場「パシフィコ横浜」で開催した。

 家族や友人の同伴者参加も可能としたことで、大雨にもかかわらず、会場には前年比15倍の約1500人が集まり、質疑応答には渡辺美樹会長兼社長自らが応じた。総会後には「5年後の夢を語ろう!」と渡辺会長の1時間のトークイベントも開かれた。ワタミの有機野菜や宅食の試食コーナーもあり、ある個人株主は「こんなに穏やかな雰囲気の総会は初めて」と評…

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週刊エコノミスト

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